2010年10月24日

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編5>

【 10月17日 日曜日 】

大阪へバイバイ。1017a.jpg

今夜は大阪で最終公演の予定。さすがに予定があって付いていくわけにはいかず、早朝、薬を持ってホテルへ。幸いデイヴは悪化しておらず、リチャードもなんとか喉がもっている様子。
ホテルにポセイドンの予約したワゴンタクシーが着き、重い楽器類や荷物を入れて、東京駅に出発。デイヴとはここでお別れ、リチャードは、木曜日までさようなら。
posted by Crescent Label Master at 12:45| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編4>

【 10月16日 土曜日 】

Gray & Pink 本番2日目。

朝起きると、へザーからメールが届いていた。昨夜リチャードと国際電話で話して、とても心配になり、いてもたってもいられなくなった様子。私は知らなかったが、リチャードのNo.1ベースにも、マイナートラブルが生じたらしい。
返事:
昨日ハモンドのトラブルがあったが、それは、レンタル納品の際、間違って電源の周波数設定が西日本用にされていたため(西日本が60kHz、東日本が50kHz)で、今日は設定修正しているはずなので問題ない(デイヴは日本国内で2つの違った周波数設定があることなど、もちろん知らなかった)。リチャード自身のコンディションも悪くないし、ベースは今日増田さんと修理に持っていくそうなので、心配御無用。

というわけで、今日はキーボードのトラブルなし。明らかに昨日より安定したステージに。何よりデイヴのハモンドの音がきちんと出ており、一安心。リチャードのベーストラブルは、速攻修理不能だったそうだが、未修理のままでも、音自体や演奏しやすさには何の問題もないことが判明し、これも一安心。
ただし、リチャードはまたまた意外性を狙ってか、単なる物忘れか、お約束外しを・・・収拾つけるまでにリチャード自身がヘロヘロになる場面も散見された。
「毎日同じではいけない。音楽が死んでしまう。それに、連夜来てくれた聴衆の満足を得られない。」
というのが、後日直に聞いたリチャードの言い分。
「音楽が死んでしまう。」とは、なかなか格好いい台詞だ。だが、せめてバンドメートに「どう変えるか」は事前に伝えてね・・・と言いたいところだが、根が即興大好きさんなので、演っている最中にひらめいた方へ流れて行ってしまう様子。
来てくださった方々には、これもリチャードのステージではお決まりの現象と思って勘弁していただき、むしろ、「味」と感じていただけたら・・・といったところ。

打ち上げは、例によって居酒屋へ。増田さんと私の初対面の場をつくってくれた、共通の知人である、写真家のYomiya Apiさんも同席。久々に会い、話が弾む。和食大好き人間のリチャードにとっても、ベジタリアン(?)のデイヴにとっても、日本の居酒屋のメニューからは、「食べられる」物がたくさん選択できて、きっと楽しいはず。
ここで、デイヴが実は風邪気味なのが発覚。リチャードの喉も良い状態ではないため、二人はアルコールを無しにして、食べるだけで早めのお開き。明日、大阪公演での風邪本格化を是非とも避けたいところ。
明日の朝、両シンクレアが発つ前に、薬を持ってくる約束をして帰宅。
posted by Crescent Label Master at 12:41| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編3>

【 10月15日 金曜日 】

Gray & Pink 本番初日。

昨夜採寸したデイヴのズボンを買いに、昼に妻とユニクロへ。ちょうど良い感じの黒い細めのストレート・コーデュロイ・パンツが見つかり、裾あげしてもらって、帰る。

午後、増田さんから電話。
「昨夜お宅でのリハで、リチャードはベース使ってました?」
「ええ、曲によってはベースにしてましたよ。」
「じゃあ、今日いきなり始めたんじゃないんですね。分かりました。どうも。」
本番当日、第1部のリハで、いきなりリチャードがベース弾き出したんで、「聞いてないよ」状態だった様子。

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夕方、開場前に到着。リハーサル〜サウンドチェックがステージで進んでいる。さすがに両シンクレアとも緊張の面持ち。
ステージをパッと見て一番目立つのは、デイヴのハモンド&レスリー。ハモンドはヴィンテージものの大きなやつで、レスリーの更に大きなスピーカーにつながれている。レスリーの上部でファンがクルクル回っている様がバッチリ見えて、「おおー!」と感嘆の溜息が漏れる。昨日までのリハーサルでは、ハモンドの代わりに普通のキーボードを使っていて、ヴォリューム不足なく、デイヴ独特の歌うようなメロディアスな運指の妙が良く聴き取れたのだが・・・デイヴやスタッフにとっても、このレンタルした古楽器に触るのは今日が最初。なかなか思うように鳴ってくれない。
リチャードの方は、マイクの性能がとても良いこともあって、ヴォーカルの方は問題なし。ただし、頭皮の静止摩擦係数の不足から、しょっちゅうヘッドフォン型のマイクがズリ落ちそうになる。ベースにも無線でアンプまで飛ばすタイプのターミナルがつけられた。動き回っても大丈夫ということなのだろう。だが、かえってこれがリチャードにとって勝手が違ったようで、違和感からか、何度も手で触っている。
頃合を見て、デイヴにズボンを渡す。デイヴのハモンドの音が立たないのが気にかかるが、時間的にこのままの状態で本番突入するしかない様子。

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第1部開演。リチャード、デイヴの順にステージ登場。デイヴは黒いズボンをはいている。小さくて入らないという最悪の事態は回避できている様子。「あとは落ちないようにベルトで締めておくれ!」
デイヴはエレピに専念。リチャードが、曲ごとに、ヴォーカルのみだったり、ベースを入れたり、チビギター(そういえば、なぜかラインでつながず、外部マイクで音を拾っていた)にしたり・・・。
昨夜のリハーサルと違って、“O Caroline”がエレピ、“If I could do it all over again, I'd do it all over you”がピアニカに変わっていた。きっと今日のリハーサルでまた変えたのだろう。
途中デイヴのエレピにトラブル発生。電源を一回落として立ち上げ直さねばならない事態が生じ、数秒間リチャードの独唱となったが、トラブルはその後おこらず、よかったよかったといったところ。全体的には、世界中で史上初めてこのデュオを聴いたことになる聴衆が、固唾を呑んで音楽に集中し、真剣に見、聴き、心を動かされている様子がビンビン伝わってくる、とても良いコンサートになったと思う。
欲を言えば、リチャードの声がベストであれば(一部高音が出ずにオクターヴ下げた箇所あり)、また、デイヴがエレピではなくグランド・ピアノを弾いていたら・・・プログレというカテゴリーを越えて、このデュオが「音楽の真髄」を現出させしめる数少ない音楽家であることを、もっと多くの聴衆が悟ったのではないか・・・などと思うが、長いキャリアの中で、この従兄弟同士が初めてデュオのステージに立ったという、歴史的な瞬間を体験できただけで、感極まるものがあったことも事実。

第2部。オパビニアの3人を加えてのパワフルなグループ演奏。すでに「音職人」の領域にいる3人は、リハでの打ち合わせどおり、緩急自在の楽器捌きを見せてくれた。完全にスコアが決まった演奏かというとそうでもなく、各々のソロなどでは、各自、自由裁量での演奏になっていたと思う。しかし、原則スコアどおりの進行の場面でも、御大リチャードが突然(本番の最中に!)ひらめいてお約束をはずしていったり・・・さぞや勝手が違ったことだろう。しかし、彼らの良いところは、そういう「揺らぎ」自体も、リチャードの「味」と理解(諦め?)し、2人のシンクレアに尊敬の念を抱いて、演奏しているところだ。オパビニアの面々が、リハの最中ずっと「難しい」と心配していた“9 feet 〜”の転調ごとにクルクル変わるテンポの保持も、危なげなく乗り切って、流石。
リチャードは例によって、観客の反応を見ながら楽しそうに演奏。歌詞は歌詞カードをチラチラ見ながらではあったが、大局的に問題なし。
ただし、デイヴのハモンドが立たないのは相変わらずで、ついに、最初から最後まで、視覚的にはデイヴが頭を上下させ、一生懸命ハモンドの鍵盤を叩いているのに、聴覚的に「?」の状態。律儀なデイヴは、ハモンドを捨てて、他のキーボードだけで演奏することを良しとしなかったようで、音が弱かろうが何だろうが、せっかくポセイドンが大枚はたいて借りてくれたヴィンテージ楽器を叩き続ける。
このあたりが、二人のシンクレアのもっとも大きな性格的差異が如実に表れた事態ともいえよう。


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Photo by Satomi. I



もしもリチャードがキーボード奏者だったら、さっさとハモンドは捨てて、ピアニカ持ってハモンドの前に躍り出ただろうし、第1部でエレピが止まった際も、すかさず他のキーボードに切り替えて、演奏中の電源入れ直しは避けたに違いない。
リチャードは、「準備はやや適当(失礼)。でも本番は聴衆の気をそらすことなく、何をしてでも観客を楽しませるのが仕事。」と思っているふしがあり、アメーバのように柔軟に対応するので、本番でのアクシデントに強い(ただし、「リチャードがアメーバになりすぎて芯がなくなってしまうことが、共演者にとって最大のアクシデントだ。」という噂もある)。
一方、デイヴは「きちんと準備をする(実際第1部のメドレーなどは、皆デイヴが準備したもの)。しかし、本番では準備した線から外れることを良しとせず、頑なに既存のコースを堅持しようとする。」という、日本人の心性に近い、良い意味での強迫性がみてとれる。従って、ハモンドを弾くべきパートはハモンドを忠実に弾き、本番中にエレピが止まれば、電源入れ直してでもエレピの続行を試みようとする。
実は、この日の夜、二人はお酒が入って、多少言い争いになったらしいが、おそらくこのへんの「優先順位の違い」によるものだろう。(翌日には2人はケロッとしていた。)

演奏終了後、裏口から出ることなく、2人は熱心なファン数人の待つ観客出入り口へ向かう。途中、私に気がついたデイヴは、ニコニコ顔で近づいて握手を求めて言った。
「完璧だったよ!」
「ん?」ハモンドはずっと駄目、エレピにもトラブル発生・・・なのに・・・
「『完璧』って何が?」
「このズボンのことさ。色も形もサイズもパーフェクトだ。」と、嬉しそうにニコニコしながら、ユニクロのズボンを摘まんでみせた。
2人で大笑い。(これがイングランドの高度なユーモアなのか、天然なのかは謎)

打ち上げ会場の居酒屋へ行くと、二人と飲みたがっている方々(日本人&外国人)で席は満杯になりそうだったので、すでに長時間彼らと一緒にいる私は、遠慮して帰路に着いた。
このときにチラッと顔を見た外国人のオジサンが、後日六本木で会うことになるモーガン・フィッシャーその人であろうとは、この時点で気付くはずもなかった。
posted by Crescent Label Master at 12:38| 日記