2010年10月24日

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編2>

【 10月14日 木曜日 】

夕方、渋谷のレンタルスタジオへリハーサルを覗きに行く予定にしていたが、家をでる前に増田さんから電話。
「本番第2部のグループ編成の方は、昨日と今日でリハができたんですけど、第1部のデュオの方が全然やる時間がなくて…、昨夜も知人宅でリハーサルやったはずなんですが、不十分らしいんですよ。それで…リチャードが言うには、お宅にピアノがあるからこっちのリハが終わったらお邪魔してデュオのリハをやりたいと言うのですが…、やっぱりお邪魔でしょうか?」
そうか、昨夜のは宴会じゃなくてリハだったのか!
「いえ、問題ありません。うちは夜中でも大きな音を出してOKですから。」
というわけで、電車で行く予定を変更し、急遽車で出発。

スタジオに入り、オバビニアの清水さん、芳垣さんとは初対面のご挨拶。鬼怒さんとは横浜以来2度目のご挨拶。チビギター購入の経緯をお伝えし、お店を教えて下さったことにお礼。
猛烈な暑さの中、完全にリチャードが全体の指揮をとってリハが進んでいた(“9フィート”だけはデイヴ)。これがビックリするぐらいよい出来で鮮烈な音。
比較的モッタリした、輪郭の柔らかな両シンクレアの音が、オパビニアのエッジの効いた音彫刻に混じってクルクル踊る…非常に耳新しい音楽がそこには出来上がりつつあった。本番でコケさえしなければ、ひょっとするとマジカル・ナイトになるかもしれない…と思わせるに充分な出来であった。

スタジオでのリハが20:00に終了。直ちに2人を楽器や乾電池式ベースアンプともども車に乗せる。鬼怒さんと芳垣さんが、「えっ?これからまだやるの?体力あるなー。」と感嘆。今日のスタジオリハは、8時間ぐらいだったという。疲れているのに、これから本当に体力がもつのだろうか?と、心配になる。
リチャードの希望で、一旦ホテルに戻り、荷物を置いて着替えることに。ついでに、溜まった洗濯物を全部持ってくるように伝える。洗濯物は、リチャードが買い物袋2つ分、デイヴはその1/4程度。他のは昨日自分で洗濯したのだという。
自宅に到着。デイヴはTシャツとバッジをお土産にと妻に渡す。気の使い方が日本人みたいな人だ。刺身とおにぎり(焼たらこと鮭)、サラダに味噌汁という簡単な夕食をとるが、これから真剣勝負なので、刺身用にとウイスキーのショットグラスにちょっとだけ日本酒を出すだけにし、「あとはアルコールなしにしましょう。」と宣言。


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さっそくデイヴはピアノに座り、即興で何か弾いている。「いいピアノだ。」と気を使ってくれる。リチャードは、ベースをアンプにつなぎ、簡単なサウンドチェック。チビギターにもチューニングを施し、スタンバイ。
明日以降の本番に備え、同じ曲順でリハーサルが進む。ピアノを置いているギャラリーの反対側で、妻と私がうっとりとその様子を見て聴いていた。子供はしばらくして眠気に勝てず就寝。歌いすぎのためか、リチャードの声がいつもより少しかすれ気味なのが気にかかる。


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途中、アレンジの打ち合わせ行きつ戻りつがあり、結局23時過ぎに終了。ビールで喉を潤すご両人。さて、渋谷のホテルまで送りましょう。と提案するが、デイヴが言いにくそうに話しかけてくる。
「実は、昨日ホテルで洗濯したのですけど…」
「?!」
デイヴが調達してきて使った洗剤が、実は洗剤ではなくて、漂白剤だったという。
「服が全部斑になっちゃって…実は、明日の本番も、今はいている汚れたズボンしかないことになってしまいました。」
「はっ?マジですか?」
「マジです。」
「でも今日はもう遅いし…明日は買いに行く時間はありますか?」
「リハーサルとサウンドチェックのため、全く時間はありません。」
「シャツもですか?」
「シャツは本番用のが無事です。大丈夫です。」
というわけで、明日、本番までにこちらであつらえて会場に届ける約束をし、巻尺でデイヴのウエスト、股下、腰高を測定する。
「色は?」
「黒。」
「生地やその他はお任せでよい?」
「えーと、日本のは膨らんだ形のが多いけど、スリムなのがいいです。」
わかりました。何とかやってみましょう。

渋谷のホテルまで送る間、後部座席の2人は、とりあえずリハが済んで安心したのか、非常に饒舌に。冗談を飛ばしあい、ゲタゲタ笑いながら、あっという間に到着。

「では、リチャード、ホテルの空気は乾いていて喉が心配だから、濡らしたバスタオルを部屋に掛けたり、バスタブにお湯を張ったりして寝てください。」
「OK、分かっている。」
「デイヴ、ズボンのことは心配なく。えーと、ベルトはあるんでしたっけ?」
「ベルトは大丈夫。」
「では、おやすみなさい。明日会場で。」
posted by Crescent Label Master at 12:20| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編1>

【 10月13日 水曜日 】

20:30頃、仕事から帰ってくると、先日リチャードに代わって私が連絡をとった旧友の某氏より電話。
「リチャードに聞いたら、お宅がうちのお近くなのがわかったので…、今リチャードとデイヴが来て飲んでるんですけど、宜しかったらいかがですか?」
遠慮なくお邪魔することに。飲むに決まっているので、妻に送ってもらい、某氏宅に到着。
迷わなければ自宅から車で10分足らずの所。
奥様の案内で部屋に入ると、リチャードが手を挙げる。続いてデイヴ。リチャードは例のベイビーを持ってきている。部屋の隅には弦が切れた他のアコギが…。
「さっきリチャードが切ったんですよ。」と某氏。
「そうだと思いました。実は先日も御茶ノ水のイシバシでも弦をあんまり強く引っ張るもんだから切れちゃって、小沢一郎似のオジサン店員に睨まれたんです。弦はストロング・テンションのしか買わないですし…。」
ご主人である某氏とは初対面。お互い、ゲストの外国ミュージシャンの方が機知の仲という妙な関係ながら、楽しくお酒をいただく。他にも某氏のお知り合い3名の方がいらしていた。
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結構お酒がすすんだ頃、デイヴがピアノに向かい、静かに、リヴァーブの効いた感動的な音色を奏で出す。続いてリチャードが歌う。"9 feet underground"の後半、リチャードがボーカルを担当していた部分のフレーズ。生で体験する、生きている音の説得力に呆然となる。よく見ると、リチャードがファイルに入れた歌詞カードを見ながら歌っている。ひょっとして今度の公演用か?その後も、ミュージシャン、聴衆ともにグイグイ飲みながらのミニコンサートが進む。時折、リチャードとデイヴは打ち合わせながら音を合わせていく。デイヴがピアニカで演奏する場面もあり、大ウケ。夜中の2時過ぎ、皆体力切れになり、散会。

呼ばれたタクシーに乗り込む2人。リチャードはプー帽子をかぶり、ベイビーをひざの上に立てて乗せており、デイヴは何か液体を入れたビニール袋の上をつまんで顔の前にぶら下げている。ちょうど金魚すくいで捕った金魚を持って帰る子供のような格好だ。ほとんど漫才コンビのような出で立ち。

タクシーを見送り、某氏や皆様にお礼。ぶらりと歩いて家路についた。



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posted by Crescent Label Master at 12:18| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 第4日

【 10月11日 月曜日 】

例によって、正しい和定食を平らげた後、リチャードは、自宅から持ってきたキャメルの2枚組みライブCDを聴いて、“Uneven Song”の歌詞をレポート用紙に書き写す。もちろん夕方のアイン・ソフへのゲスト出演の準備のために。もう1曲歌うらしい(“Tell Me”)のに、そっちの準備はいいんだろうか?と気になるが、リチャードは全く動じていない。
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家族そろっての早めの昼食を「兵隊家(蕎麦)」で。リチャードは冷やしたぬきうどんと、天麩羅盛り合わせ。そういえば、どこにいっても天麩羅は必ず頼んでいるなー。店内でも他のお客さんたちの中に溶け込んで、全く違和感なく箸で上手に食べている。
「ギグの前だからSakeは無しネ。」

今日から本番に向けて、O-West近くのホテル泊になるので、荷物をまとめて出発。ホテルにチェックインをし、真っ黒の革製パンツと黒のTシャツ、それにプー帽子にサングラスという出で立ちに着替え、チビギター、ベース、販売用のCDや必要書類が入っている鞄を持って出発。
会場の吉祥寺までは、井の頭通りを行けば40分ぐらいかな…と安心していたら、不可解な渋滞にはまり、意外に時間をとられてしまう。会場入りが4時だったか4時半だったか記憶が曖昧だったので、車中“Tell Me”の練習をしているリチャードに、
「鞄から今日のスケジュール表を出してくれますか?」と頼むと、「OK」と、鼻歌交じりで鞄をゴソゴソ探すリチャード。
「無い!あっ、今日書き写した歌詞カードも無い!」

真っ青になってUターン。ホテルまで飛んで帰り、部屋を散策するが、やはりせっかく書いた歌詞カードが無い。
「これは、『全編ハミングと鼻歌』決定だ!」
と、人事ながら青くなる私。更に、この忘れ物Uターンで決定的に時間がかかり、遅刻は免れなくなってしまった。押し黙り、目を血走らせてハンドルを握る私に、
「そんなに心配しなくていいよ。もっと焦らずいこうよ。( Don't worry. Take it easy. )」
というリチャード。
「大丈夫大丈夫、“Tell Me”なんて、簡単な歌詞なんだから見なくたって全然心配ないよ。“Uneven Song”だって今日自分で書いたんだから問題ないさ。」
そんなはずはあるまい…というのはわかっているが、ここまできたら、覚悟を決めるしかない。
奇跡的に井の頭通りの中間部は空いていたが、吉祥寺に入ってからが全く動かず、五日市街道に回るがここも渋滞。目を血走らせていると、携帯電話が鳴る。
「Hello..!」デイヴだった。
「リチャードは何をしていますか?」
「私の横で小さなギターを弾きながら“Going for a Song”を歌っています。」
「今日はその曲を演るのですか?」
「いいえ、今日演るのは全く別の曲です。では代わります。」
思わず「しかも今日の曲の歌詞カードを忘れてきました。」と口から出かけたが止めた。
「ハイ、デイヴ。えっストレス?そんなの全然ないよ、ウケケケケ、ところで…」
どうしてこの状況でストレスがないのだ?

約束の時間を30分強過ぎて、Star Pine's Cafeに到着。怒涛の勢いで増田さんやLive Houseのスタッフが飛び出し、リチャードと荷物を地下のホールへ引っ張って行った。リハーサルなしのサウンドチェック…車を駐車場に入れて、5分後に戻ると、入り口にまでリチャードの浪々としたボーカルが聞こえる。おかしい、ちゃんと歌詞を歌っている!
小走りに地下へ行くと、なんとA5ぐらいの大きさの紙を見ながらリチャードは歌っているではないか。どうやら、こういう事態を想定していたのか、アイン・ソフの方で歌詞カードを用意していてくれたらしい。アイン・ソフ偉い!

持ち込んだ自分のCDを、現地調達したプラケースに入れ、中休みにサインを入れて販売会。凄い勢いでさばけていく。売れ行きは、アイン・ソフの限定発売CDといい勝負だった。

ライヴの後半、いよいよ出番という時に、信じられないぐらい暑い舞台裏で、リチャードは毛糸のプー帽子を被り、なぜかチビギターも背負い出番を待つ。「暑い暑い」と、お互いそのへんにあった板切れで相手をあおって待っていると、増田さんが、
「これ邪魔でしょ。」
と、チビギターを脱がせようとした。すると、
“No, it's my baby!”と、脱ごうとしない。
結局、そのままの格好でステージに飛び出して行った。歌っている姿を2階席から眺めていたが、ベイビーというより、まるでキンドーさんがまたがる巨大イチジク浣腸のようではないか…と思って苦笑。でも、誰も笑ってはいなかった。
歌詞カード提供と、入るタイミングをきめ細かく指示してくれたYozoxさんのおかげで、なんとか無事に歌い終えたリチャード。
コンサートも無事に終って、安堵の表情の関係者。私は、翌日が激務な為、打ち上げには参加せずそのまま帰宅。リチャードとしばしのお別れの挨拶をして、4日ぶりの一人の時間を車中で満喫する。
あとは、関西から戻る21日まで、リチャードは我が家には来ないことになっていたのだが…



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posted by Crescent Label Master at 12:16| 日記