2010年10月24日

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編7>

【 その後 】

リチャードが置いていった虎の子のベースはどうなったかというと・・・
結局3月の来日はしないので送ってくれと!
それから我が家に置いていった手作りCDRをUSAのフェスに出る時にまた送ってくれと・・・
郵送費は払うからと言ってたが、未だに入金はないのです。

【完】
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リチャード・シンクレア ホームステイ日記 第8日目

【 10月24日 日曜日 】

1024a.jpg成田発11時頃の便なので、7時前に出発せねばならない。とても朝食は無理なので、妻の作ってくれたおにぎりと玉子焼き、鳥の竜田揚げのお弁当と、魔法瓶の熱いお茶をもって、時間がなければ走りながら車中で食べることにする。リチャードも妻も子も名残惜しそう。リチャードは、妻子の両頬にキッス。動揺する妻に、「これ、イタリア風の挨拶。」すっかりイタリアに行く気だな。家の前で記念撮影をして出発。
荏原から首都高に乗って、来日初日に話題になったレインボー・ブリッジを越え、湾岸戦をひた走る。レインボー・ブリッジを渡ると、感慨深げなリチャード。チビギターは、ボディーの中に梅干や海苔やお茶漬けの素などがギュウギュウ詰めにしてあるので、鳴らすことができない。CDにかぶせたコーラスが続く。
意外に渋滞もなく来られたので、成田空港直前のパーキングで停車して、お弁当の朝ごはんをいただく。いつものように、美味しい美味しいと完食。

9時前に空港着。エール・フランスのカウンターで、長々列に並んで手続きの順番を待つ。もちろん待っている間も小さい声で歌っている。
「・・・や、小さなお子様をお連れの方は、初めに・・・」と、なにやら優先手続き用のアナウンスが英語で流れたあと、
「・・・and musicians first・・・」などと館内放送の声色を真似て呟くリチャード。ウへへへと大笑い。

やっとリチャードの番に。重いベース用のハードケースはうちに置いてきており、2台のベースはソフトケースに入れて紐で縛って一体化させてある。それに加えて、怪しい沖縄風楽器類の箱が一つ。ボストンバッグが一つ。チビギターは背負っているので、これら3品を荷物室へ預けることに。すべて計りに乗せると、大幅な過重量。カウンターのおねえさんをなだめてもすかしても、ちっともまけてやろうということにならず、3万円以上の過重量料金を請求されることに。私は「仕方ないなあ。」と諦めたが、リチャードは諦めず、意を決して2台のベースをばらすと、父親手製の大事な方を私に預け、更に沖縄の鐘2個、コーラスペダル、履いていた古い靴などを荷物から抜いて、残りを再度計りに・・・。それでも1万3千円ぐらいの過重料金を取られた。
「残りはどうするの?」
「悪いが預かっておいてくれ。」
「ベースも?」
「大丈夫、どうせ3月に来ることになるし。」
というわけで、虎の子のベースや、その他の重いものは、私が家で保管することになった。

カウンターでの交渉で、二人とも喉が渇いてしまったので、バルコニー状になっている上の階へ階段で上がり、そこのカフェで冷たいコーヒーを飲むことにした。道々ブツブツ文句を言いあう我々。
「まったくフレンチ・エアーはPOOHだ!」
でも、手続きが終わり、あとは乗るだけとなってすっきりしたのか、上機嫌なリチャード。
「じゃあ、僕が買ってくるよ。アイスコーヒーでいい?」
「ええ、お願いします。」
店の外のテーブルに荷物を置いて待っていると、やがて「おーい」と、私の名を呼ぶリチャードの声が、赴くと、眉間にしわを寄せて怒っている。
「頼む、代わって注文してくれ。通じないんだよ!」
ニコニコ顔で出てきた御用聞きのような青年とやりとりする。
「アイスコーヒー2つでいいんだけど?」
「当店ではアイスコーヒーではなく○○となりますが宜しいでしょうか?」
「要するにそれはアイスコーヒーと同じなんでしょう?」
「ええ、まあ。大きさは?」
「レギュラーでいいよ。」
「レギュラーというのはございません。○○とtallと、××になりますが?」
「だったら真ん中のトールでしょうが。」
「かしこ参りました。ミルクとガムシロップは?」
「片方は両方必要で、片方はミルクだけ。」
「かしこまりました。」
手を上に挙げてあきれるリチャード。
「じゃ、払ってくる。」
大丈夫か見ていると、注文をとった青年に払おうとしていたリチャードが、店の反対側の端を指され、会計はあちらでと言われている様子。列に並んで順番待ちさせられているリチャード。
会計が終わり、怒るリチャード。
「信じられんぜ。全世界、どこへ行ってもシンプルに『Iced Coffee two』で通じないところなんてないぞ。それに、どうしてアイスコーヒー頼むだけなのに、あんなにたくさんのことを選ばなけりゃいけないんだ!?」
しかも、やってきたアイスコーヒーは両方ともガムシロ&ミルク入りだった。
後ろでは、高校生ぐらいのアルバイトの女の子が、吉本興業系の甲高い声で注文を伝えている。それも、顔が赤らむほどのジャパニーズ・エセ・イングリッシュを混ぜて・・・「ハイ、アイスラテトールツー入りました。云々・・・」
生粋のイングランド人(しかも英語の発音がきれいなケント州)のリチャードの英語がまったく受け入れてもらえない一方で、わけのわからぬエセ英語的言語がとびかうこの空間のおかしさに、つい苦笑。
「ねー、聞きました?『アイスラテトールツー』だって!ラテはイタリア語だし、トールツーって、tallとtwoのことみたいですよ。」
と、女の子の吉本声を模写すると、ようやくリチャードも大笑い。

パスポート・チェックなどの時間がかかりそうなので、40分前には出発口に行くよう降りていくと、ものすごい人の列。まさかと思ったが、手続きに並んでいる人の列が、階上のここまで続いているのだという。両手を握っての丁寧なお礼の挨拶。さすがは紳士の国の住人。仕方なく並んでもらい、へザーにメールで送る為の最後の写真を撮るよ、と声を掛けると、後ろに並んだ若い日本の女の子たちを引き寄せ、「一緒に撮ろうよ。イエーイ。」

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本当は最後に、「It didn't matter anyway...We'll meet again some other day...」などと歌って別れようと思ったのだが、リチャードはおねえちゃんたちに「どこ行くの?」などと聞いていて忙しい。
「じゃあ、行くね。さよなら。」
「本当に色々ありがとう。3月に戻ってくるから。そいつ(ベース)の面倒宜しくね。」と、簡単な挨拶をして、駐車場へ向かった。
リチャード父作の重いベースや怪しい鐘を持って・・・

さらば、リチャード。
機内では歌うなよ。
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リチャード・シンクレア ホームステイ日記 第7日目

【 10月23日 土曜日 】

いつものように、シャワーのあと和朝食。車で岡本民家園へ。もちろんチビギター付き。車中例によって弾き語りは続く。日本の古民家は、グレート・ブリテン〜アイルランドのそれと、非常に似ている点が多い。特に藁屋根の張り方がそうで、リチャードもこの意見には同意していた。ただし、神棚、障子や囲炉裏といったものは、日本独特の文化なので、リチャードの関心を引く様子。煙たなびく囲炉裏端に座って、チビギターの弾き語りを始めた。当日民家園を管理していた老齢の女性が、興味深げに聴き入っていたのが印象的。

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縁側に供えられた十五夜?のお供え餅が気になって仕方ないリチャード。
「イングランドでは『神は唯一絶対』のようだけど、日本は多神教的なところがあって、何千年と生き続ける樹木や、満月などの神秘的な自然現象にも『神』を感じて、こうやって供物を捧げてお祈りをする文化があるのです。この餅や植物は、月の神に捧げられているのです。。。多分。。。そして、この餅の数に意味があって、月の満ち欠けの形に応じて歴で『第何日目の夜』というふうに決められているのですが、餅の数がその数にそろえられているはずです。。。多分。。。」
「そうなのか・・・」
私のいい加減な説明に感心する。

1023b.jpg 民家園の裏山で、小さな竹の木を引っこ抜くリチャード。持って帰って植えるのだという。裏にある井戸や、鳥小屋など、日本のノスタルジーを充分感じたところで、一旦帰宅して、近所でランチをとることに。
「和食では、鮨、天麩羅、鰻、蕎麦、など、大体なんでもありますが、何を?」
「天麩羅。」
ということで、「与喜(天麩羅)」でランチ。本当に天麩羅が好きな人だ。
ビールとお酒で昼間からいい気分に。

完食後、靴を買いにABCマートへ。丁度手ごろで気に入ったものが手に入り、よかったよかった。その後、サングラスを売っている店を数件回るが、気に入ったものがなく、これは諦めることに。一昨日入った山野楽器を再来。チビギターの弦巻が今ひとつ気に入らないようで、もっと緩まないしっかりしたのに取り替えたいという。店側は、用意できる3種類の弦巻を出してくれたが、どれもが普通の6弦ギター用で、チビギターの小さなヘッドには大きく重過ぎるという判断となり、これも諦め。
さすがに、最終日で疲れているらしく、「これから御茶ノ水へ行こう!」という話にはならない。一昨日サインをもらっていた女の子と、他の店員さんが、CDを持ってやってきた。
「お店にキャラヴァンが一つだけありました。」
見ると、私が見たことのないベスト盤。リチャードは知っていたようで、裏返し、写真を指差して、
「これが僕だよ。この頃はまだ髪があったけどね。クククッ」

日のあるうちに、自宅前で、何カットかデジカメや6×6で自然光ポートレイト撮影。イタリア南部のプーリア(長靴の踵の辺り)に移住を希望しているリチャードは、イタリア車が気に入ったらしく、「このAlfa Romeoと一緒に撮って。」と希望。

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「プーリアには、円錐形の屋根で声がいい具合に反響するトゥルリっていう面白い形の建物がいっぱいあってね。僕もヘザーも気に入ったんだよ。ほら、『Gray & Pink』のジャケットに描いてある可愛い家があるでしょ。丁度あんな形。あっちに移住できれば、毎日お日様にあたれるし、ヘザーの陶芸も自宅でできるようになるし・・・」

どうも、イギリス人は歳をとると、南へ南へと行きたがる傾向がるように思う。スコットランドに住んでいた私の友人は、冬の暗い雲、雪やみぞれ、強い風にうんざりして、イングランド南部のソールスベリーに引っ越したし、スペインのマラガ〜コスタ・デル・ソルや島(マヨルカ島、イビサ島、フォーメンテラ島)には、引退したイギリス人が大勢住み着いている。そういえば、マヨルカやイビサはケヴィン・エアーズやロバート・ワイアットの、フォーメンテラはピート・シンフィールドゆかりの島だったな。
リチャードは、英国内では比較的南で暖かなカンタベリーに住んでいても、やっぱり「もっと南。」ということになるのだろうか・・・とすると、「京都に住みたい。」と言っているデイヴ・シンクレアは、かなり珍しい部類に入るようだ。

その後は、近所のスーパーで、海苔、お茶漬けの素、切干大根、梅干、味噌汁(ドライ)などを大量購入。明朝早いため、すぐに楽器の間に埋めてパッキング。すると、暗くなり始めた時間帯に、大きな揺れが。テレビで震度3の表示が出る。急いで階下におりてみると、リチャードが困惑気味。
「何これ?」
「これが地震だよ!」
「そうか、照明が揺れてるんで風が入ったのかと思ったが、自分も揺れてる感じで妙だったんだ。これが地震か!」
そう話している最中に第二震。その後少し時間を置いて大きな揺れが更に1回。
今回の来日で、巨大台風2個、大地震3揺れを体験したリチャード。

1023d.jpg 夕方、家族3人とリチャードで、昨日予約しておいた「しゃぶ玄(しゃぶしゃぶ)」へ。紙のように薄く切った牛肉は、あちらではない物なので、興味津々。コツを教えたら、どんどん胡麻ダレとポン酢を使い分けて食べていく。箸を使うことにも全く危なげなく、皿や小鉢を左手で持ち上げて自然に食べている。
「和食のエキスパートになりましたね。」
「どうもありがとう。でもまだ生徒の段階だね。」
2時間以上かけて、ゆっくり食べ、飲み、語らい、笑い、皆心置きなく最後の晩餐を楽しんで帰宅。

へザーから「壊滅的な地震が日本であったとBBCが流しているが、皆大丈夫か?」と、メールで安否情報の問い合わせ。
「関係者は皆、震源地(東京の北300km)から離れているので大丈夫。ただし、震源地周辺は大変なことになっている可能性があり、住人たちのことをとても心配している。」と、返事を打っておく。

テレビは地震関連の番組を緊急報道。被害状況が気になって仕方がないが、明日は朝早いので、早めに就寝。
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リチャード・シンクレア ホームステイ日記 第6日目

【 10月22日 金曜日 】

例によって、シャワーの後、和朝食をたいらげる。食事中、今日明日の予定を話し合う。すでに決まっている、今日夕方の能鑑賞を軸に、それまでの時間は鎌倉へ行くことになり、明日は、実質的なステイ最終日なので、区内の民家園でクラシカルな日本の住宅を見学することと、カンタベリーに持って帰りたい食料品などを近所で買うこと、傷んできた靴を買い直すこと、もう一度楽器屋へ行くこと、うちの家族とどこか外でさよならパーティー兼食事会をすること、その他の時間は、記念撮影などに当てることになった。

鎌倉へは、京都で買ってきた「禅」の字が書かれた真っ赤なTシャツを着て、チビギターを持って出発。車中、いつものようにリチャード・コーラス(CDと生音声)を聞きながらの、贅沢な時間が過ぎる。第三京浜から横浜新道へ入る。リチャードに、今走ってきたのが、あの大型台風直下、横浜まで走ったときと同じ行程であることを告げると、あまりの風景の差にびっくり仰天。
さらに、横浜横須賀道路へと乗り継いで、朝比奈インターから一般道へ。鶴岡八幡宮に寄ろうかどうしようか迷ったが、琵琶法師状態が高じて、長い参道の途中で立ち止まって、本当のストリート・ミュージシャンをやってしまうことが危惧されたので、時間的なことを考えて、大仏のある長谷の高徳院へ直行。

寺に足を踏み入れ、最初に竹の柄杓で水をとり、手を清める儀式を行う。リチャードはなんの躊躇もなく手を洗う。歩を進めると、目の前に、巨大大仏が出現し、仰天するリチャード。はしゃぎ気味で、修学旅行生の記念撮影の後ろに立って一緒に写真に写ったり、団体旅行のバスガイドのかわいこちゃんと写真を撮ったり・・・大仏の中に入ると、エコー効果抜群の音響に感激し、あっちに移動しては「ラララーッ」、こっちに移動しては「ラーラリーラー」と、大仏内のどこが一番反響するか確かめた上で、チビギター&ヴォーカルのミニコンサート開催。観光客の御夫人方やカップル、修学旅行中の小学生たちから喝采を浴びていた。

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大仏から出ても琵琶法師状態が続き、大仏の周りを弾き語りしながらゆっくりと何周もする。横の売店で、鎌倉の大仏に関する英語の解説本、線香、絵葉書(大仏のと富士山の)などのショッピングを楽しむ。売店の横に吊り下げられた巨大なわらじが不思議なようだったので、
「あれは大仏が立ち上がってどこかへ出かけるときに履く、ストローでできた巨大サンダルなのだ。」
と、適当な解説をすると、大ウケ。一見厳格な空気感に包まれた日本の仏教寺院の中に、控えめなユーモアが隠し味で用意されていることに、とても感激している様子。

帰り道ですれ違う着物を着た女性がとても気になるらしく、「一緒に写真に写ってくれないかなー。」とおねだり。私が声を掛けて、合計2人の着物女性と写真撮影成功。寺を出て、「御代川(会席料理)」のコースをいただく。その後、門前のおみやげ屋やブティックで、へザーの為の衣類を大量に買う。ついでに自分用の「日本」「一番」などの漢字が印刷されたTシャツも。
一度駐車場の車を出して帰ろうとするが、「忘れ物をした、戻ろう。」と言うので、少し先でUターン。待ちきれないリチャードは、車を降りて足早にお店に入っていく。再度駐車して店に行って見ると、へザーに買ったのと同じタイプで、生地がもっと高い(アンゴラ)マフラー兼コートのような、ポンチョ風の品の良い服を買っている。私の妻へのプレゼントだと言う。こういう気の使い方は流石という感じ。こちらも素直に感謝の念を伝える。

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帰宅し、リチャード直々に妻にプレゼントを贈呈。思わぬ贈り物に喜ぶ妻。時間が迫っているので、渋谷の観世能楽堂へ、能鑑賞に出かける。謡を習っている母から情報を得て、今日の演目のうち、「篭太鼓」というのが、堤や笛、地歌がふんだんに入り、一番飽きさせないと聞いていたので、丁度その時間に入場。店じまいを始めている売店で、慌てて能や和楽器のCDを買うリチャード。

渋谷までの車中、演目のストーリーと、楽器、アクターが踏み鳴らす舞台の床が、巨大なドラムになっていることなどをあらかじめ教えておいたのだが・・・開始10分後ぐらいには、すっかり舟を漕ぐリチャード。いびきをかき出したら起こさねば、と構えるが、途中、気が触れた(振りをした)女が太鼓を乱打する場面で、音にびっくりして起きた様子で、杞憂に終わる。

能楽堂を出て、東急本店の方へ歩く。
「能は歌舞伎のような派手な展開がないな。」とリチャード。
キャメルで来日したときは、UDOに歌舞伎に連れて行ってもらったのだという。
「能の音声は、モノトーンで上下動がほとんどないので、眠くなる人が多いんですよね。」
「そうなの」と、しらばっくれるリチャード。「今度のCDタイトルは決まったようなもんですね。『Dedicated to you but you weren't aw
ake. Oh NOH!』」
「ギャハハハ。それヒューの曲の名前のもじりだろ?ほんと、危うく寝るところだったよ。」(って寝てたじゃん!)

道々、片腕を水平にあげ、すり足で進みながら、
「お〜の〜、ぅい〜どんとの〜、あばうとの〜〜。」
などとデタラメ能を舞いながら街へおりていく我々。時折「ギャハハ」と大笑いの声が高級住宅地松涛にこだまする。
「ここに、坂田明がいてくれたらなー。」などと、馬鹿なことを考えているうちに、車を停めておいた東急本店へ。

この辺りが泊まっていたホテルのあった辺だと気づくと、「一度行きたい。」という。黒い流線型のサングラスを渋谷でなくしたはずなので捜したい、とのこと。案の定ホテルでは「ない。」といわれた。しかし、リチャードはあきらめず、ベースを修理に持っていったギターショップに違いない、という。このへんで修理可能なほどのギターショップは、道玄坂のYAMAHAしか知らないので、そちらに行こうとすると、「反対の方だ。」とセンター街の方へ。結局自力で場所はわからなかったが、「2階にあった。」という記憶を頼りに、こちらが探してイシバシ楽器渋谷店に行き着く。こんなところにイシバシがあったとは・・・。サングラスの件は瞬時にして「ありません。」の返事。しかし、もうちゃっかり椅子に座ってベースを試奏しだした。やがて店内に“蛍の光”のメロディーが流れ出す。
「この曲はスコットランドの民謡が原曲で、“Auld Lang Syne”だったかな、それで」
「オー、知ってるよ。こうだろ、‘♪Should auld acquaintance be forgot, And never brought to mind? ♪’」
と、浪々と歌い始める。
「いや、そうじゃなくて、日本ではこの曲は『お別れの時』に流す音楽なんですよ。だから、お店でこの曲が流れる時は、『閉店時間です』のアナウンスになるのです。」
「そうなの。」
と、意に介さない。
新発売?の5弦ジャズベースを欲しそうにしている。買いそうな勢いだ。
「もうすでに1本買っているし、とても持って帰れないよ。」
というと、惜しそうに店員に聞く。
「3月に日本に戻ってくるんだけど、それまであるかな?」
「モデルとしては新しいので、3月までに製造中止になるかどうかは・・・よっぽど売れなければすぐにモデルチェンジになっちゃうこともたまにあるんですけど・・・まー、このモデルだったら、3月まではあると思いますね。」
やっと矛を収め、閉店過ぎに、やっと外へ。結局サングラスは見つからぬまま、夜の渋谷のネオンをバックに写真を撮って欲しいと希望。こういうカラフルな人工光は、カンタベリーやロンドンでは見たことがないのだろう。

明日は、実質的最終日。先に決めた予定以外に、「新しいサングラスを買うこと。」も加わった。

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やっと帰宅。近所でやや遅めの夕食をとろうということになり、「三崎丸(鮨)」。少し(かなり?)意地悪をして、上級者向けの、光り物(コハダ、アジ、イワシ)、貝類(赤貝、鳥貝、北寄貝)や軍艦巻き(ウニ、イクラ)などを試してみようということになった。ナマコの酢の物も熱燗の肴で試食。
結果的には、リチャードは全て問題なくたいらげてしまい、「たいへん美味しい。」との論評を下さった。出すネタごとに、日本語で「今度のは無理でしょう。」などと、ささやき合っていた鮨職人のお兄さんともども土下座。オソレイリマシタ。
お兄さんは、
「梅しそ巻きは絶対無理でしょう!」
などと勧めて?くれたが、
「駄目!全然駄目!梅干が大好物なんだもん。大阪行ってる間、梅干がなくなるかもしれないってんで、自分で梅干の瓶詰買って持ってくぐらいだから。試してみる?」
「リチャードどう?」
「『とっても美味しい』だって、ほらー。」
「じゃあ、納豆巻きは・・・」
「駄目!うちで納豆美味しそうに食べてた。」
というように、全く勝負にならない。

もう、この人は普通の日本人より和食が好きかもしれない。ホームステイの最中、実は一緒に食事をとるこちらの方が、「そろそろロールキャベツが食べたい。」「いい加減にオムライスでもいいから洋食を食べさせてくれ、ラーメンや中華でも良い。」「贅沢は言わない、この際マクドナルドでも手を打とう。」などと勝手に提案しそうになり、喉をかきむしって悶え苦しんでいたのだが、何食でも連続で和食が食べたいという・・・。そういえば、初日に「すべて好きだから何でも食べたい。」みたいなことを言っていたなー。いやいや、本当の本当でしたね。
リチャードの完全勝利ということで、帰宅。

「今度来た時には、八丈島のクサヤを出すしかないな。」
などと企みつつ就寝。
posted by Crescent Label Master at 13:00| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 第5日目

【 10月21日 木曜日 】

正午頃、新横浜駅に関西から戻るリチャードを迎えに行く。あらかじめ、関西でのホストである、Six Northの島さんから、到着電車と車両の情報をいただいているので完璧だ。リチャードは、ベース、チビギター、衣類の入ったバッグ以外に、何やら色々手に持って下車。先々週、横浜ジャズ・フェスの帰りに寄った寿司屋がこの近くであることを伝えると、「是非行きたい。」と。

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ほぼ2週ぶりの「翁寿司(鮨)」。御主人はもちろん我々のことを覚えていて、最初から話が弾む。リチャードは、京都で買ってきた怪しい沖縄風楽器など何点も店の中で広げて御披露。中には、ブリキの空き缶に棒を刺して三味線にしたようなへんてこなものさえ混じっている。その様子を、笑って許容する御主人。
その上で、例によってチビギターとヴォーカルで“Going for a Song”“Keep on Caring”などのミニコンサートを始めるリチャード。

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「仕事でやってるだけじゃなくて、根っから音楽が好きなんだね。」
「京都からだったら、富士山は見えましたか?」
「上半分が雲で見えなかったです。」
例によって1.5人前の握りと、アサリ、シジミのお椀を作ってもらって、完食。

自宅へひとまず帰り、荷物を置いてから、六本木Super Deluxeへ出かけることにする。道々、帰国までの自由時間に、何をしたいのか聞いてみると、京都でへんてこ楽器を山ほど買って満足したのか、意外にも御茶ノ水や新大久保はもういいとのこと(やれやれ)。
「オチャノミズ」が発音しづらいようで、車中何度も練習する。
「ところで、アイン・ソフと演ったのは、何ていうとこだっけ?」
「吉祥寺。」
「キイチジ・・・?」
何度教えてもツボをつかめない。
「OK。料理が好きで台所に住み着いているGeorgeという男がいましたとさ。皆から『Kitchen George』と呼ばれていました・・・はい、言ってみて、『Kitchen George』。」
「Kitchen George」
「OK。“en”抜けば完璧だけど、それで充分通じます。」

シャワーを浴びてから、着替えて出かけることになったが、どうやらどのTシャツも汚れていてだめらしい。妻が急いで洗濯をするというが、ギグには間に合わないので、急遽貰い物の私のTシャツを着て行ってもらうことに。
「六本木は乗り換え無しで行けるので電車にしましょう。終わったら飲むかもしれないし。」というと、弦やアンプに接続するコード類を少し買いたいので、行きがけにギター・ショップに行きたいという。
というわけで、山野楽器へ。希望の品々に加えて、ウケレレをハードケースつきで買っている。うちの子へのプレゼントだという。申し訳ない。
「僕も最初に父から買ってもらったのがウクレレなんだ。弦が4つで学びやすいし、小ぶりで子供でも持ちやすいしね。」
「いくつのときに買ってもらったのですか?」
「3歳。」
リチャードの楽器歴は、3歳のウクレレに始まって、バンジョー、ギターと進んで、15歳のときに、父親同士が知り合いだったホッパー兄弟と一緒に演るようになり、それがWilde Flowers になったようだ。ベースを主要楽器とし始めたのは、キャラヴァンからだという。
そういう経緯を聞くと、ヒュー・ホッパーとデュオで“Somewhere in France”を発表したときに感じた違和感、「どうしてベーシスト同士で?」の謎が解けた。思春期に彼らが出会ったとき、リチャードはギタリストであって、まだベースを手にしていなかったのだ。ソロ・アルバムなどで、ギターを弾きたがるのは、こういう楽器歴があるからだろう。

お店の女の子にサインをしてあげて、出発。六本木Super Deluxe に4時半過ぎに到着。モーガン・フィッシャーはもう来ていて、細かなサウンドチェックをしているところだった。リチャードはモーガンと握手して挨拶。続いて私も御挨拶。「あっ、渋谷の初日打ち上げにいたおじさんだ!」と、このとき気づいた。少し遅れてサム・ベネットが到着。三人三様のサウンドチェック。

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リチャードは、ベース、チビギター以外に、今日買ったばかりのウクレレや、京都で買ってきた怪しい鐘とそれを叩くスティックも試している。
モーガンは、ヴィンテージもののキーボードに色々な仕込みをしていて、変形マイクのようなものを口に咥えて声を出すと、シンセサイザーを通してモノトーンな機械的な声に変換するようにしたり、演奏と同期させて、巨大な映写映像が切り替わるように仕込んであるようだ。
サムは、タブラのようなパーカッションと、テルミンのような動作で音が出るシンセサイザー、電動歯ブラシなど、およそ普通のパーカッショニストとはかけ離れた装置の数々。サウンドチェックも、ノイズとシグナルの差が、私には弁別不能だった。

間に休憩を入れた2部構成で演ることに決まっており、前後半とも、10分づつのソロの後、3人での即興ということになる。ソロの順番を決めるために、3人でジャンケンポン。サム、モーガン、リチャードの順になった。

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会場には、モーガンの常客、サムのファンに加えて、告示期間が短かったのに、熱心に駆けつけてくれたリチャードのファンもたくさん来場してきてくれた。アイン・ソフ、渋谷の2日の3会場すべてで見かけた熱心なファンの方も散見。休憩時間には、こういった熱心なファンの方々と、即席サイン会&撮影会。

演奏は、とてもユニークな即興。時々リチャードが自分の持ち曲のメロディーを数フレーズ出して、他の2人のインタープレイの洪水を呼び込む。今まで聞いたことのない音楽がそこにあった。明らかにリチャードは楽しんでいる。
モーガンがリフレインをかけたまま、キーボードを離れ、サムは観客席のテーブルの上においてガタガタ音を立てさせていた電動歯ブラシを回収して終了し、リチャードも、鼻歌ハミング&ベースを静かにヴォリュームオフにして終了。

元々、キャラヴァン離脱の原因は、リチャードによれば、「演りたがりで、毎日楽器に触って歌っていたいリチャードに対して、パイやリチャード・コーフランは、『仕事のときだけ』という感じで、音楽100%の生活に踏み込んでくることはなく、とても物足りなかったから。」ということらしい。相手の言い分もあるだろうが、私が一緒に過ごしている限り、「演りたがりで、毎日楽器に触って歌っていたい。」というのは確かで、私に対しても、「だれか知り合いでセッションする相手いない?」と、何度も聞いてくる始末。今回のGray&Pinkツアーも、3回の本編以外にリチャードはあちこちで演奏しているが、これは皆リチャード自身の「演りたがり」要望を受けて増田さんが実現させたもの。
一方、デイヴの方は「演りたがり」ではなく、一人静かに部屋にこもってピアノで作曲していたいという「創りたがり」といえよう。したがって、リチャードと違って、一度も本編以外のギグは演らない。

ギグの後、リチャードと増田さんと3人で、近所の居酒屋へ。二人で仕事の話(“What in the World”正式CDプレスや、HF&N来日公演の話)をしだしたが、熱燗をあおるうち、私はすっかり眠ってしまった(失礼)。

二人に起こされ、リチャードとタクシーに乗って帰宅。
posted by Crescent Label Master at 12:54| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編6>

【 10月20日 水曜日 】

前日のへザーからのメールに、
「リチャードが1日早く東京に戻りたいといっているが、水曜に帰っても良いか?」
との問い合わせ。
手に取るようにわかるリチャードの魂胆。ツアーを終えて、木曜日のMorgan Fisherとのギグまで、一日早く水曜日に帰ってきて、御茶ノ水と新大久保で丸一日試奏したい・・・。まー、仕方ない。
「OK。仕事が夕方まであるが、午後8時過ぎなら新横浜に迎えに行ける。」
と返答しておいた。

しかし今日、台風のため東海道新幹線運休となり、上京不可能に。
リチャードにとって2度目の台風体験。

そうなったらなったで、京都で何か楽器に手を伸ばしているに違いない・・・と予想していたが、図星だったようだ。
posted by Crescent Label Master at 12:45| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編5>

【 10月17日 日曜日 】

大阪へバイバイ。1017a.jpg

今夜は大阪で最終公演の予定。さすがに予定があって付いていくわけにはいかず、早朝、薬を持ってホテルへ。幸いデイヴは悪化しておらず、リチャードもなんとか喉がもっている様子。
ホテルにポセイドンの予約したワゴンタクシーが着き、重い楽器類や荷物を入れて、東京駅に出発。デイヴとはここでお別れ、リチャードは、木曜日までさようなら。
posted by Crescent Label Master at 12:45| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編4>

【 10月16日 土曜日 】

Gray & Pink 本番2日目。

朝起きると、へザーからメールが届いていた。昨夜リチャードと国際電話で話して、とても心配になり、いてもたってもいられなくなった様子。私は知らなかったが、リチャードのNo.1ベースにも、マイナートラブルが生じたらしい。
返事:
昨日ハモンドのトラブルがあったが、それは、レンタル納品の際、間違って電源の周波数設定が西日本用にされていたため(西日本が60kHz、東日本が50kHz)で、今日は設定修正しているはずなので問題ない(デイヴは日本国内で2つの違った周波数設定があることなど、もちろん知らなかった)。リチャード自身のコンディションも悪くないし、ベースは今日増田さんと修理に持っていくそうなので、心配御無用。

というわけで、今日はキーボードのトラブルなし。明らかに昨日より安定したステージに。何よりデイヴのハモンドの音がきちんと出ており、一安心。リチャードのベーストラブルは、速攻修理不能だったそうだが、未修理のままでも、音自体や演奏しやすさには何の問題もないことが判明し、これも一安心。
ただし、リチャードはまたまた意外性を狙ってか、単なる物忘れか、お約束外しを・・・収拾つけるまでにリチャード自身がヘロヘロになる場面も散見された。
「毎日同じではいけない。音楽が死んでしまう。それに、連夜来てくれた聴衆の満足を得られない。」
というのが、後日直に聞いたリチャードの言い分。
「音楽が死んでしまう。」とは、なかなか格好いい台詞だ。だが、せめてバンドメートに「どう変えるか」は事前に伝えてね・・・と言いたいところだが、根が即興大好きさんなので、演っている最中にひらめいた方へ流れて行ってしまう様子。
来てくださった方々には、これもリチャードのステージではお決まりの現象と思って勘弁していただき、むしろ、「味」と感じていただけたら・・・といったところ。

打ち上げは、例によって居酒屋へ。増田さんと私の初対面の場をつくってくれた、共通の知人である、写真家のYomiya Apiさんも同席。久々に会い、話が弾む。和食大好き人間のリチャードにとっても、ベジタリアン(?)のデイヴにとっても、日本の居酒屋のメニューからは、「食べられる」物がたくさん選択できて、きっと楽しいはず。
ここで、デイヴが実は風邪気味なのが発覚。リチャードの喉も良い状態ではないため、二人はアルコールを無しにして、食べるだけで早めのお開き。明日、大阪公演での風邪本格化を是非とも避けたいところ。
明日の朝、両シンクレアが発つ前に、薬を持ってくる約束をして帰宅。
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リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編3>

【 10月15日 金曜日 】

Gray & Pink 本番初日。

昨夜採寸したデイヴのズボンを買いに、昼に妻とユニクロへ。ちょうど良い感じの黒い細めのストレート・コーデュロイ・パンツが見つかり、裾あげしてもらって、帰る。

午後、増田さんから電話。
「昨夜お宅でのリハで、リチャードはベース使ってました?」
「ええ、曲によってはベースにしてましたよ。」
「じゃあ、今日いきなり始めたんじゃないんですね。分かりました。どうも。」
本番当日、第1部のリハで、いきなりリチャードがベース弾き出したんで、「聞いてないよ」状態だった様子。

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夕方、開場前に到着。リハーサル〜サウンドチェックがステージで進んでいる。さすがに両シンクレアとも緊張の面持ち。
ステージをパッと見て一番目立つのは、デイヴのハモンド&レスリー。ハモンドはヴィンテージものの大きなやつで、レスリーの更に大きなスピーカーにつながれている。レスリーの上部でファンがクルクル回っている様がバッチリ見えて、「おおー!」と感嘆の溜息が漏れる。昨日までのリハーサルでは、ハモンドの代わりに普通のキーボードを使っていて、ヴォリューム不足なく、デイヴ独特の歌うようなメロディアスな運指の妙が良く聴き取れたのだが・・・デイヴやスタッフにとっても、このレンタルした古楽器に触るのは今日が最初。なかなか思うように鳴ってくれない。
リチャードの方は、マイクの性能がとても良いこともあって、ヴォーカルの方は問題なし。ただし、頭皮の静止摩擦係数の不足から、しょっちゅうヘッドフォン型のマイクがズリ落ちそうになる。ベースにも無線でアンプまで飛ばすタイプのターミナルがつけられた。動き回っても大丈夫ということなのだろう。だが、かえってこれがリチャードにとって勝手が違ったようで、違和感からか、何度も手で触っている。
頃合を見て、デイヴにズボンを渡す。デイヴのハモンドの音が立たないのが気にかかるが、時間的にこのままの状態で本番突入するしかない様子。

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第1部開演。リチャード、デイヴの順にステージ登場。デイヴは黒いズボンをはいている。小さくて入らないという最悪の事態は回避できている様子。「あとは落ちないようにベルトで締めておくれ!」
デイヴはエレピに専念。リチャードが、曲ごとに、ヴォーカルのみだったり、ベースを入れたり、チビギター(そういえば、なぜかラインでつながず、外部マイクで音を拾っていた)にしたり・・・。
昨夜のリハーサルと違って、“O Caroline”がエレピ、“If I could do it all over again, I'd do it all over you”がピアニカに変わっていた。きっと今日のリハーサルでまた変えたのだろう。
途中デイヴのエレピにトラブル発生。電源を一回落として立ち上げ直さねばならない事態が生じ、数秒間リチャードの独唱となったが、トラブルはその後おこらず、よかったよかったといったところ。全体的には、世界中で史上初めてこのデュオを聴いたことになる聴衆が、固唾を呑んで音楽に集中し、真剣に見、聴き、心を動かされている様子がビンビン伝わってくる、とても良いコンサートになったと思う。
欲を言えば、リチャードの声がベストであれば(一部高音が出ずにオクターヴ下げた箇所あり)、また、デイヴがエレピではなくグランド・ピアノを弾いていたら・・・プログレというカテゴリーを越えて、このデュオが「音楽の真髄」を現出させしめる数少ない音楽家であることを、もっと多くの聴衆が悟ったのではないか・・・などと思うが、長いキャリアの中で、この従兄弟同士が初めてデュオのステージに立ったという、歴史的な瞬間を体験できただけで、感極まるものがあったことも事実。

第2部。オパビニアの3人を加えてのパワフルなグループ演奏。すでに「音職人」の領域にいる3人は、リハでの打ち合わせどおり、緩急自在の楽器捌きを見せてくれた。完全にスコアが決まった演奏かというとそうでもなく、各々のソロなどでは、各自、自由裁量での演奏になっていたと思う。しかし、原則スコアどおりの進行の場面でも、御大リチャードが突然(本番の最中に!)ひらめいてお約束をはずしていったり・・・さぞや勝手が違ったことだろう。しかし、彼らの良いところは、そういう「揺らぎ」自体も、リチャードの「味」と理解(諦め?)し、2人のシンクレアに尊敬の念を抱いて、演奏しているところだ。オパビニアの面々が、リハの最中ずっと「難しい」と心配していた“9 feet 〜”の転調ごとにクルクル変わるテンポの保持も、危なげなく乗り切って、流石。
リチャードは例によって、観客の反応を見ながら楽しそうに演奏。歌詞は歌詞カードをチラチラ見ながらではあったが、大局的に問題なし。
ただし、デイヴのハモンドが立たないのは相変わらずで、ついに、最初から最後まで、視覚的にはデイヴが頭を上下させ、一生懸命ハモンドの鍵盤を叩いているのに、聴覚的に「?」の状態。律儀なデイヴは、ハモンドを捨てて、他のキーボードだけで演奏することを良しとしなかったようで、音が弱かろうが何だろうが、せっかくポセイドンが大枚はたいて借りてくれたヴィンテージ楽器を叩き続ける。
このあたりが、二人のシンクレアのもっとも大きな性格的差異が如実に表れた事態ともいえよう。


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Photo by Satomi. I



もしもリチャードがキーボード奏者だったら、さっさとハモンドは捨てて、ピアニカ持ってハモンドの前に躍り出ただろうし、第1部でエレピが止まった際も、すかさず他のキーボードに切り替えて、演奏中の電源入れ直しは避けたに違いない。
リチャードは、「準備はやや適当(失礼)。でも本番は聴衆の気をそらすことなく、何をしてでも観客を楽しませるのが仕事。」と思っているふしがあり、アメーバのように柔軟に対応するので、本番でのアクシデントに強い(ただし、「リチャードがアメーバになりすぎて芯がなくなってしまうことが、共演者にとって最大のアクシデントだ。」という噂もある)。
一方、デイヴは「きちんと準備をする(実際第1部のメドレーなどは、皆デイヴが準備したもの)。しかし、本番では準備した線から外れることを良しとせず、頑なに既存のコースを堅持しようとする。」という、日本人の心性に近い、良い意味での強迫性がみてとれる。従って、ハモンドを弾くべきパートはハモンドを忠実に弾き、本番中にエレピが止まれば、電源入れ直してでもエレピの続行を試みようとする。
実は、この日の夜、二人はお酒が入って、多少言い争いになったらしいが、おそらくこのへんの「優先順位の違い」によるものだろう。(翌日には2人はケロッとしていた。)

演奏終了後、裏口から出ることなく、2人は熱心なファン数人の待つ観客出入り口へ向かう。途中、私に気がついたデイヴは、ニコニコ顔で近づいて握手を求めて言った。
「完璧だったよ!」
「ん?」ハモンドはずっと駄目、エレピにもトラブル発生・・・なのに・・・
「『完璧』って何が?」
「このズボンのことさ。色も形もサイズもパーフェクトだ。」と、嬉しそうにニコニコしながら、ユニクロのズボンを摘まんでみせた。
2人で大笑い。(これがイングランドの高度なユーモアなのか、天然なのかは謎)

打ち上げ会場の居酒屋へ行くと、二人と飲みたがっている方々(日本人&外国人)で席は満杯になりそうだったので、すでに長時間彼らと一緒にいる私は、遠慮して帰路に着いた。
このときにチラッと顔を見た外国人のオジサンが、後日六本木で会うことになるモーガン・フィッシャーその人であろうとは、この時点で気付くはずもなかった。
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リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編2>

【 10月14日 木曜日 】

夕方、渋谷のレンタルスタジオへリハーサルを覗きに行く予定にしていたが、家をでる前に増田さんから電話。
「本番第2部のグループ編成の方は、昨日と今日でリハができたんですけど、第1部のデュオの方が全然やる時間がなくて…、昨夜も知人宅でリハーサルやったはずなんですが、不十分らしいんですよ。それで…リチャードが言うには、お宅にピアノがあるからこっちのリハが終わったらお邪魔してデュオのリハをやりたいと言うのですが…、やっぱりお邪魔でしょうか?」
そうか、昨夜のは宴会じゃなくてリハだったのか!
「いえ、問題ありません。うちは夜中でも大きな音を出してOKですから。」
というわけで、電車で行く予定を変更し、急遽車で出発。

スタジオに入り、オバビニアの清水さん、芳垣さんとは初対面のご挨拶。鬼怒さんとは横浜以来2度目のご挨拶。チビギター購入の経緯をお伝えし、お店を教えて下さったことにお礼。
猛烈な暑さの中、完全にリチャードが全体の指揮をとってリハが進んでいた(“9フィート”だけはデイヴ)。これがビックリするぐらいよい出来で鮮烈な音。
比較的モッタリした、輪郭の柔らかな両シンクレアの音が、オパビニアのエッジの効いた音彫刻に混じってクルクル踊る…非常に耳新しい音楽がそこには出来上がりつつあった。本番でコケさえしなければ、ひょっとするとマジカル・ナイトになるかもしれない…と思わせるに充分な出来であった。

スタジオでのリハが20:00に終了。直ちに2人を楽器や乾電池式ベースアンプともども車に乗せる。鬼怒さんと芳垣さんが、「えっ?これからまだやるの?体力あるなー。」と感嘆。今日のスタジオリハは、8時間ぐらいだったという。疲れているのに、これから本当に体力がもつのだろうか?と、心配になる。
リチャードの希望で、一旦ホテルに戻り、荷物を置いて着替えることに。ついでに、溜まった洗濯物を全部持ってくるように伝える。洗濯物は、リチャードが買い物袋2つ分、デイヴはその1/4程度。他のは昨日自分で洗濯したのだという。
自宅に到着。デイヴはTシャツとバッジをお土産にと妻に渡す。気の使い方が日本人みたいな人だ。刺身とおにぎり(焼たらこと鮭)、サラダに味噌汁という簡単な夕食をとるが、これから真剣勝負なので、刺身用にとウイスキーのショットグラスにちょっとだけ日本酒を出すだけにし、「あとはアルコールなしにしましょう。」と宣言。


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さっそくデイヴはピアノに座り、即興で何か弾いている。「いいピアノだ。」と気を使ってくれる。リチャードは、ベースをアンプにつなぎ、簡単なサウンドチェック。チビギターにもチューニングを施し、スタンバイ。
明日以降の本番に備え、同じ曲順でリハーサルが進む。ピアノを置いているギャラリーの反対側で、妻と私がうっとりとその様子を見て聴いていた。子供はしばらくして眠気に勝てず就寝。歌いすぎのためか、リチャードの声がいつもより少しかすれ気味なのが気にかかる。


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途中、アレンジの打ち合わせ行きつ戻りつがあり、結局23時過ぎに終了。ビールで喉を潤すご両人。さて、渋谷のホテルまで送りましょう。と提案するが、デイヴが言いにくそうに話しかけてくる。
「実は、昨日ホテルで洗濯したのですけど…」
「?!」
デイヴが調達してきて使った洗剤が、実は洗剤ではなくて、漂白剤だったという。
「服が全部斑になっちゃって…実は、明日の本番も、今はいている汚れたズボンしかないことになってしまいました。」
「はっ?マジですか?」
「マジです。」
「でも今日はもう遅いし…明日は買いに行く時間はありますか?」
「リハーサルとサウンドチェックのため、全く時間はありません。」
「シャツもですか?」
「シャツは本番用のが無事です。大丈夫です。」
というわけで、明日、本番までにこちらであつらえて会場に届ける約束をし、巻尺でデイヴのウエスト、股下、腰高を測定する。
「色は?」
「黒。」
「生地やその他はお任せでよい?」
「えーと、日本のは膨らんだ形のが多いけど、スリムなのがいいです。」
わかりました。何とかやってみましょう。

渋谷のホテルまで送る間、後部座席の2人は、とりあえずリハが済んで安心したのか、非常に饒舌に。冗談を飛ばしあい、ゲタゲタ笑いながら、あっという間に到着。

「では、リチャード、ホテルの空気は乾いていて喉が心配だから、濡らしたバスタオルを部屋に掛けたり、バスタブにお湯を張ったりして寝てください。」
「OK、分かっている。」
「デイヴ、ズボンのことは心配なく。えーと、ベルトはあるんでしたっけ?」
「ベルトは大丈夫。」
「では、おやすみなさい。明日会場で。」
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リチャード・シンクレア ホームステイ日記 <番外編1>

【 10月13日 水曜日 】

20:30頃、仕事から帰ってくると、先日リチャードに代わって私が連絡をとった旧友の某氏より電話。
「リチャードに聞いたら、お宅がうちのお近くなのがわかったので…、今リチャードとデイヴが来て飲んでるんですけど、宜しかったらいかがですか?」
遠慮なくお邪魔することに。飲むに決まっているので、妻に送ってもらい、某氏宅に到着。
迷わなければ自宅から車で10分足らずの所。
奥様の案内で部屋に入ると、リチャードが手を挙げる。続いてデイヴ。リチャードは例のベイビーを持ってきている。部屋の隅には弦が切れた他のアコギが…。
「さっきリチャードが切ったんですよ。」と某氏。
「そうだと思いました。実は先日も御茶ノ水のイシバシでも弦をあんまり強く引っ張るもんだから切れちゃって、小沢一郎似のオジサン店員に睨まれたんです。弦はストロング・テンションのしか買わないですし…。」
ご主人である某氏とは初対面。お互い、ゲストの外国ミュージシャンの方が機知の仲という妙な関係ながら、楽しくお酒をいただく。他にも某氏のお知り合い3名の方がいらしていた。
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結構お酒がすすんだ頃、デイヴがピアノに向かい、静かに、リヴァーブの効いた感動的な音色を奏で出す。続いてリチャードが歌う。"9 feet underground"の後半、リチャードがボーカルを担当していた部分のフレーズ。生で体験する、生きている音の説得力に呆然となる。よく見ると、リチャードがファイルに入れた歌詞カードを見ながら歌っている。ひょっとして今度の公演用か?その後も、ミュージシャン、聴衆ともにグイグイ飲みながらのミニコンサートが進む。時折、リチャードとデイヴは打ち合わせながら音を合わせていく。デイヴがピアニカで演奏する場面もあり、大ウケ。夜中の2時過ぎ、皆体力切れになり、散会。

呼ばれたタクシーに乗り込む2人。リチャードはプー帽子をかぶり、ベイビーをひざの上に立てて乗せており、デイヴは何か液体を入れたビニール袋の上をつまんで顔の前にぶら下げている。ちょうど金魚すくいで捕った金魚を持って帰る子供のような格好だ。ほとんど漫才コンビのような出で立ち。

タクシーを見送り、某氏や皆様にお礼。ぶらりと歩いて家路についた。



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posted by Crescent Label Master at 12:18| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 第4日

【 10月11日 月曜日 】

例によって、正しい和定食を平らげた後、リチャードは、自宅から持ってきたキャメルの2枚組みライブCDを聴いて、“Uneven Song”の歌詞をレポート用紙に書き写す。もちろん夕方のアイン・ソフへのゲスト出演の準備のために。もう1曲歌うらしい(“Tell Me”)のに、そっちの準備はいいんだろうか?と気になるが、リチャードは全く動じていない。
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家族そろっての早めの昼食を「兵隊家(蕎麦)」で。リチャードは冷やしたぬきうどんと、天麩羅盛り合わせ。そういえば、どこにいっても天麩羅は必ず頼んでいるなー。店内でも他のお客さんたちの中に溶け込んで、全く違和感なく箸で上手に食べている。
「ギグの前だからSakeは無しネ。」

今日から本番に向けて、O-West近くのホテル泊になるので、荷物をまとめて出発。ホテルにチェックインをし、真っ黒の革製パンツと黒のTシャツ、それにプー帽子にサングラスという出で立ちに着替え、チビギター、ベース、販売用のCDや必要書類が入っている鞄を持って出発。
会場の吉祥寺までは、井の頭通りを行けば40分ぐらいかな…と安心していたら、不可解な渋滞にはまり、意外に時間をとられてしまう。会場入りが4時だったか4時半だったか記憶が曖昧だったので、車中“Tell Me”の練習をしているリチャードに、
「鞄から今日のスケジュール表を出してくれますか?」と頼むと、「OK」と、鼻歌交じりで鞄をゴソゴソ探すリチャード。
「無い!あっ、今日書き写した歌詞カードも無い!」

真っ青になってUターン。ホテルまで飛んで帰り、部屋を散策するが、やはりせっかく書いた歌詞カードが無い。
「これは、『全編ハミングと鼻歌』決定だ!」
と、人事ながら青くなる私。更に、この忘れ物Uターンで決定的に時間がかかり、遅刻は免れなくなってしまった。押し黙り、目を血走らせてハンドルを握る私に、
「そんなに心配しなくていいよ。もっと焦らずいこうよ。( Don't worry. Take it easy. )」
というリチャード。
「大丈夫大丈夫、“Tell Me”なんて、簡単な歌詞なんだから見なくたって全然心配ないよ。“Uneven Song”だって今日自分で書いたんだから問題ないさ。」
そんなはずはあるまい…というのはわかっているが、ここまできたら、覚悟を決めるしかない。
奇跡的に井の頭通りの中間部は空いていたが、吉祥寺に入ってからが全く動かず、五日市街道に回るがここも渋滞。目を血走らせていると、携帯電話が鳴る。
「Hello..!」デイヴだった。
「リチャードは何をしていますか?」
「私の横で小さなギターを弾きながら“Going for a Song”を歌っています。」
「今日はその曲を演るのですか?」
「いいえ、今日演るのは全く別の曲です。では代わります。」
思わず「しかも今日の曲の歌詞カードを忘れてきました。」と口から出かけたが止めた。
「ハイ、デイヴ。えっストレス?そんなの全然ないよ、ウケケケケ、ところで…」
どうしてこの状況でストレスがないのだ?

約束の時間を30分強過ぎて、Star Pine's Cafeに到着。怒涛の勢いで増田さんやLive Houseのスタッフが飛び出し、リチャードと荷物を地下のホールへ引っ張って行った。リハーサルなしのサウンドチェック…車を駐車場に入れて、5分後に戻ると、入り口にまでリチャードの浪々としたボーカルが聞こえる。おかしい、ちゃんと歌詞を歌っている!
小走りに地下へ行くと、なんとA5ぐらいの大きさの紙を見ながらリチャードは歌っているではないか。どうやら、こういう事態を想定していたのか、アイン・ソフの方で歌詞カードを用意していてくれたらしい。アイン・ソフ偉い!

持ち込んだ自分のCDを、現地調達したプラケースに入れ、中休みにサインを入れて販売会。凄い勢いでさばけていく。売れ行きは、アイン・ソフの限定発売CDといい勝負だった。

ライヴの後半、いよいよ出番という時に、信じられないぐらい暑い舞台裏で、リチャードは毛糸のプー帽子を被り、なぜかチビギターも背負い出番を待つ。「暑い暑い」と、お互いそのへんにあった板切れで相手をあおって待っていると、増田さんが、
「これ邪魔でしょ。」
と、チビギターを脱がせようとした。すると、
“No, it's my baby!”と、脱ごうとしない。
結局、そのままの格好でステージに飛び出して行った。歌っている姿を2階席から眺めていたが、ベイビーというより、まるでキンドーさんがまたがる巨大イチジク浣腸のようではないか…と思って苦笑。でも、誰も笑ってはいなかった。
歌詞カード提供と、入るタイミングをきめ細かく指示してくれたYozoxさんのおかげで、なんとか無事に歌い終えたリチャード。
コンサートも無事に終って、安堵の表情の関係者。私は、翌日が激務な為、打ち上げには参加せずそのまま帰宅。リチャードとしばしのお別れの挨拶をして、4日ぶりの一人の時間を車中で満喫する。
あとは、関西から戻る21日まで、リチャードは我が家には来ないことになっていたのだが…



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posted by Crescent Label Master at 12:16| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 第3日

【 10月10日 日曜日 】

スコッチの二日酔で、お互い10時ごろの起床。シャワーの後朝食。焼鮭、納豆、のり、梅干、ヒジキ、漬けもの、ご飯、味噌汁の和定食だが、納豆にたじろぐ気配もなく、やはり好評のうちに完食。
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リチャードが連絡を取りたがっている友人に電話をいれ、接触のアレンジ。その後、車で新大久保へ。道々“Caravan of Dreams”をBGMに例によってリチャード・コーラスを楽しむ。
「確か“Long Lingers Autumn Time”に出てくる鐘は、フランスで録音していたときに、スタジオの近くの教会のを録ったんですよね?こっちのアルバムのも?」
「こっちのはカンタベリー大聖堂のだよ、リン・ゴ〜ン、リン・ゴ〜ン。うちの2階の大窓からばっちり真正面に見えるんだ。波の音は海岸(Whitstableの辺りか?)でヘザーが録ってきたやつだし、鳥のさえずりはうちの庭で録ったんだ。季節はいつだと思う?」
「とっても密に鳴き声が入ってるから、春から夏ごろ?」
「冬なんだよ、へへ。夏には、ものすごい数の鳥がピーチクやってうるさすぎてね。」
「ジャケットはヘザーが作ったんだ。松の木や鯉があって、とてもJapaneseだろう?へザーは陶芸に興味があって、日本の焼き物が…」

新大久保駅横のパーキングに停め、ギターショップ・ビルを目指す。1階がエレギ、2階がベース、3階がアンプなど、4階にアコギ。アコギの階で、例によって片っ端から試奏。何だかんだで2時間以上経って、結局普通のギターは選ばず、ボディーが非常にコンパクトな、ルーマニア製の旅行用ギターを1万円弱で購入。やっと外へ出られると思いきや、ベースの階でもう1クール…。中古の日本製フェンダー・ジャズベース(フレットレス)を買うかどうか迷っている。ピックアップの取り付け部分が外れかけているのに気がついて、
「日本では“discount”を求めてもいいのか?」
「問題ないですよ。」
というわけで、店員さんに
「ここ壊れてるからまけてくれませんか?」
「いやー、ぎりぎりの値段なんですよ。」
RS「私が自分で修理するから、その分安くできない?」
「いやー、こっちで今直します。」
と、ベースを持っていって、数分後に修理したベースを提示。
RS「フーム、いい腕しているな。OK、これをもらおう。」
おいおい、そんなにいくつも買って、帰りも過重量になるぞ、と思ったが、リチャードの鼻息は荒く、聴く耳は持たない。同じフロアで、ベース用のコーラス・ペダルと、ヴォーカルでつかうコーラスアンプも購入。都合4時間強の買い物を終え、やっと外に出られた。考えてみると、試奏しているリチャードはずっと座っていたのだが、付き合っている私は立ちっぱなし。トホホ。重いベースを車に入れ、リュックサック型のソフトケースに入った旅行ギターを持って、ご機嫌なリチャードは、琵琶法師のように、新大久保の駅周辺を、歩きながらギターとヴォイスで練り歩く。
午後3時過ぎ、あまりに遅い昼食。駅前の「近江家(蕎麦)」に入る。メニューを説明すると、冷たい蕎麦が付いている天麩羅定食を所望。店内でも構わずRS ワンマンショーが続く。他の座席で食事や歓談をしていたおばさん達が、帰り際に「お上手」と、拍手をしていった。自分の背中越しに、冷酒をグイグイあおってこちらを睨んでいた不機嫌そうな髭面のおじさんのことをリチャードは知る由もなかったが、おじさんは先に席を立って出て行った。ホッ。
天麩羅は本当に気に入った様子。今日は正しい蕎麦の食べ方を伝授。
「イギリスと違って、器を持ち上げて食べます。それと、こうやってズルズルと吸い込む音をたてながら食べます。音たてるのはマナー違反ではなく、日本ではむしろマナーに沿っています。ズルズル。」
「郷に入れば郷に従えだからな。ズッズッ。」
店を出ると、「乾電池で作動するベース用のアンプと、このベイビー(買った小ギター)につけるピックアップが欲しい。」という。
「アンプは御茶ノ水の店にあった」というので、「キャラヴァンに間に合うかなー」と、心配しつつも仕方なく御茶ノ水へ。車中ずっとギター弾きっぱなしの琵琶法師状態。
「時間が無いよ!」と促して、さっさと3〜4店舗まわり、アンプとピックアップを購入。ベイビーを背負って、アンプを持ってご満悦なリチャード。
「このベイビーでキャラヴァンに飛び入りしようかな、ハハハッ。」
6時過ぎたから渋谷へ急行…と、駐車場に向かう途中で、関係者から携帯に電話が入る。
「今どちらですか?キャラヴァンへはリチャード来ますか?」
「もちろん、今御茶ノ水だから、これから車で向かえば滑り込みセーフでしょ。」
関係者からの電話では、キャラヴァン・サイドが、たいへんナーヴァスになっているので…という内容だった。
「リチャードは、デイヴが大阪で飛び入りしたかどうかが気になってしょうがないみたいで、渋谷では自分が飛び入りしようかっていうぐらい盛り上がってるのに…」
「飛び入りなんてとんでもないです。」
というわけで、不幸なことに、リチャードにブレーキをかけなければならないことになった。
「何の電話?」
「いや、ちょっと友人から…」

首都高を走る車の中で、器用に琵琶法師状態で歩いていた様を、
「あなたは大道芸人としての才能もありますよ。」
と、賞賛したのだが、英語が拙いため、大道芸人をストリート・ミュージシャンと取られてしまった。
「そういえば東京にはストリート・ミュージシャンが少ないねー。僕らは若いときみんな演ってたんだよ。」
「確かに少ないですね。カンタベリーの街角で演ってたのですか?」
「DaveもHughも、みんなそうさ。」
「雨が降ったらどうしてたの?あちらは降ったり止んだりでしょう。」
「大きな傘さして演るんだ。ゴルフ用のデッカイやつ。」
すかさず“Golf Girl”をちびギター弾きながら楽しそうに歌うリチャードに切り出す。
「ところで…キャラヴァンのコンサートのことでなんですが、全部みますか?実は最初の来日のときにDaveが入っていたんで見に行きましたが、今のバンドにはあまり興味が無いんです。」
「そう?様子見にちょっと行こうよ。」
「わかりました。でも途中で出てよいですか?早く帰って今日は日本のパブに行きません?」
「OK、じゃあちょっとね。」

道玄坂の途中に車を停め、そこからは徒歩で。道々黒い毛糸の帽子をかぶって琵琶法師行進。109の脇を通り東急本店通りを横切りセンター街へ。ウンザリするほどの若者達の群れを、ギター弾き弾き掻き分けて進むリチャード。誰も気がつかない。曲が始まる前に会場でファンに囲まれたら、サービス精神旺盛なリチャードはノリノリになり、展開が読めなくなるので、あえて遅れて入る事に。時間稼ぎのためにさくらやに寄り、アンプ用の乾電池を購入。渋谷入りして初めてリチャードを認識したのは、ここの店員さんだった。親しげに「金・土のコンサートは来てね。」と声をかけるリチャード。そろそろ始まったであろう頃を見計らって、クアトロへ。“Headloss”の終わりごろに客席入り。とても暑く、冷たいウーロン茶を頼んで後ろの方から眺めるリチャード。背中にはちびギターを背負っている。

“The Dog the Dog He's at It Again”の最中は体を揺らしているリチャード。幸い、観客はステージに集中しており、リチャードには気がついていない様子。と、特徴的なイントロから “Golf Girl”が始まった。まさかリチャード作のこの曲をキャラヴァンがやるとは…。何やら意を決したリチャードは、後部で立って聴いているオーディエンスの中になだれ込み、大声で“Golf Girl”を熱唱。気づいた観客が数人いたが、騒動にならず。ホッ。“Nine Feet Underground”が始まるとしばらくして、リチャードと私は階下のエントランスホールに出た。しばらくモニターでステージの様子を見ていたリチャードだが、結局退場。

明日のアイン・ソフへのゲスト出演に備え、キャメルの“レインダンス”を買って、歌詞を拡大コピーせねば…と、近くのDisk Unionへ。キャメルのところを探すが、中古も含め、見当たらず。ついでにリチャード関係を見ると、なぜかHF&Nが、新品より中古の方が高いという妙な現象に気がついてしまった。珍しいことなのでリチャードを呼び寄せて見せる。
「なんで?」と怪訝そうなリチャード。
店員さんにそのことを聞くと、長らく廃盤状態だったので、最初にリリースされた盤の値段が高騰した。しかし、最近新しくプレスされたのが出て、中古盤の値が下がってきた、とのこと。
「…というわけで、値が下がってきてもまだ逆転してるんだって。」
とリチャードに伝えるが、納得いかない様子(私も同感)。
店を出ようとすると、遠慮がちに「あのー」と店員さんが声をかけてくる。10分程度の、臨時サイン会&撮影会。明らかに自分に会えて感激している5〜6人のスタッフの要求に、リチャードは嫌な顔せず応対(お店に行けばサインと写真が飾られているかもしれません)。

DUを出て、センター街を少し歩くと、リチャードが若い女の子向けの店の店頭で、毛糸でできたプーさんの帽子を発見。地がオレンジのものと、白いものを試着して鏡で写して思案…
「どっちがいい?」
「白い方のプーさんの方が目立つね。」
「でも、オレンジのほうがボンボンの色がそろっている…」
結局、オレンジの方を購入。早速かぶって、プー琵琶法師になって、道玄坂の駐車場まで戻る。

この日は、帰宅後2人で歩いて飲みに出かけることに。近所で評判の新しい焼き鳥屋を目指したが、あいにく本日休業。「和民(居酒屋)」へ。
お互い酔っ払いつつも、チビギター独演独唱会が続く。酔いにまかせて私の本音がポロリ…
「でも、まさかキャラヴァンが“Golf Girl”やるとは思わなかったな。あれはリチャードの作でしょ?“9 Feet〜”はデイヴのだし…やるならやるで…ねー。みんな日本にいるんだし…」
リチャードによると、“Golf Girl”は、彼のfamily-songだったのだそうだ。前の奥さんや、お父さんの思い出が染み付いているという。もしかしたら、歌にでてくる “Golf Girl”は、前の奥さんのことだったのか?歌詞の中から、直接お父さんに関することを察することは困難かもしれないが、この曲を作ったタイミングで強く彼の心に「父」が刻み込まれるエピソードがあったのかもしれない。そういう特別な思い入れのある曲を、彼のいないキャラヴァンでパイが歌っている…観客に彼がいることを承知で…こういうのを「複雑な心境」と言わずしてなんと言うのか。と、酔っ払いはどんどん酒を注文していく。
帰宅して、更に少し飲んでから就床。

3日目は、「複雑な心境」を抱いたまま、まどろみの中へ。
posted by Crescent Label Master at 12:14| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 第2日

【 10月9日 土曜日 】

旅疲れや時差の影響か、リチャードの起床は11時頃。シャワーを浴びて上がってきた。ほぼランチの時間だが、ご要望どおりの完璧な和定食。鯵の干物、しらすおろし、出汁巻き卵、ひじきの煮付け、焼き海苔、梅干、蕪の浅漬け、わかめと豆腐の味噌汁、ご飯。ご飯、味噌汁のお代わりまでして完食。もう疑う余地もなく、「和食は何でも大好き」は、本当のことと認めざるを得ない。台風接近のため雨を含んだ強風が窓を叩いている。
「昨日の話の続きですが、増田さんから送ってもらった情報によると、Mr.鬼怒が入っているJazzバンドのギグが、今日の夕方横浜であるようです。どうしますか?聴きに行きますか?」
「もちろん。チャンスがあれば一緒に演りたいぐらいだ。」
「OK。ただし、台風の影響で、ギグが中止になるかどうか?また、我々が会場まで行くことが出来るか?が問題になるので、インターネットで情報を見ながら判断しましょう。」…
というわけで、お茶を飲みながら四方山話をして過ごす。お互いの生活のこと、家族のこと、CARAVANのこと、HF&Nのこと、最近の音楽活動のこと、Daveのことなど…話が一段落するたびに、PCで天気・交通情報を確認。
リチャードのお父さんは、彼に言わせると、彼より音楽が上手なエンターテナーで、夕方からパブに出て演奏したりして、皆から喝采を浴びていたという。本職は木工職人で、日本で言う「大工」の語感とはちょっと違っているように感じた。イギリスの木工(技巧)コンテストのようなもので全国優勝したことがある大変凄腕の方で、カンタベリー大聖堂の木工彫刻の修復にも携わっていたというので、むしろアーティスト寄りの「宮大工」とか「匠」という方が近い気がする。ずっと彼が大切にしているNo.1ベース(「世界中でも有数の良いベース」と主張)の白木のボディーは、お父さんの製作したものだという。
「もし、父が本職のミュージシャンになっていたら、僕なんかよりずっと優秀だったと思うよ。」
リチャードの父への思いは熱く深い。

TVでも「危険なので今日は外に出ないように」とアナウンサーが盛んに注意を呼びかけている。
「イギリスにも何十年かに一度、ハリケーンがくるのだけれど、こないだのやつは凄くて、並木が端から順に倒れていったんだ。ポン・ピン・パ〜ン」
と、樹が倒れる様子を指のジェスチャーで示しながら、アクセントをつけたおどけた擬音語を発する。
リチャードの発語は音としてとてもきれいで早い。しかし、会話の流れの中にしょっちゅうこれと似たような抑揚をつけた擬音語が挿入される。それは言語なのか?すでに音楽なのか?彼の曲の中に登場する色々なマニエリエルトな声(ヨーデル風であったり、呪文のようであったり、ビブラート加工したような唇ビロビロ声であったり…)は、こういう日常会話に挿まれる擬音語の中でも展開される。裏を返せば、どうも彼は深刻な心境で音楽を捻り出しているのではなく、日常会話の延長に、自然な形であのような心にしみる歌メロを、擬音語交じりで発しているに過ぎないのではないかと思えてくる。こうなると、「歌詞を忘れてハミングで誤魔化す」という彼のステージへの批判は、根本的に的外れなのかもしれない…そもそも彼は、歌詞を歌うことと擬音語の組み立てで表現することに、大した差を感じていないのではないか?といったことが頭をよぎる。

3時ごろ、台風で早く帰された子供用にと、おやつのマルちゃんやきそばを妻が作ることに。朝食から間もないが、リチャードも食べてみたいというので、遅いランチになった。この日本独特のグニャグニャソース味ジャンク・フードも気に入ったらしく、青海苔をたっぷりかけ「美味しい、美味しい」と完食。
4時ごろ横浜ジャズ・フェスティバルの事務局に電話し、ギグの中止情報を聞く。
…「主催者事務局は、Mr.鬼怒のギグはやると言っています。」
とたんにリチャードの顔が緩む。あとは…どうやって行くかだな…電車の方が安全だな…
「ところで、(まさか)ベースは持っていかないよね?」
「もちろん持っていくよ。チャンスがあったら一緒にやりたいし。」…
…この、TVニュースが「飛ばされる危険があるので、外に出るべからず」といってる直撃台風のなか、ギグをやるほうもやるほうだが、そこへ虎の子のベースをどうやって濡らさずに持っていくんじゃ〜〜というわけで、覚悟を決めた私は、インターネットで第三京浜が通過可能かどうかをチェック。閉鎖されていないことを知るや「すぐに支度をして」とリチャードを促し、ゴアテックスのアウトドア用雨具を着込み、リチャードにはシェラのマウンテンパーカーをかぶせ、心配する家族をよそに、四輪駆動RVにベースを積んで、そそくさと第三京浜に突入したのだった。車中CDに合わせて鼻歌ハミングを歌っているリチャードも、雨が右から左へ真横に飛んでいく強風の中、車が暗闇の高速道路を走っていく情景に感激した様子で、
「凄い、凄い、この風景は凄いよ。」
「本当ですね。もし後で思い出したら“Driving Through the Typhoon”っていう曲を作ってくださいネ。」
「わかった。」
開港記念館に着き、虎の子のベースのハードケースにバスタオルをかぶせ、どしゃ降りの中ホールに飛び込む。エントランス・ホールはびしょ濡れ。リチャードを知っているのか、このJazzフェスに招かれた外タレと思ったのか、係員お揃いのウインドブレーカーを着た女性の一人が、「背中に書いてもらいたいんですけど」と私に語りかける。リチャードはこのJazzフェスには関係ないのにいいのかなー、と思ったが、通訳してリチャードに書いてもらった。嫌な顔ひとつせず、丁寧に書き込み、描き込む。ファンを大切にする人だ。
開演前に鬼怒さんが顔を見せてくれる。いざ開演。耳を劈く大音響のSAX。衝撃的で感動的な音楽!しかし、完全にプログラムされた1時間のステージで、飛び入りが許される雰囲気はまったく無い。終了後、楽屋に招かれる。鬼怒さんに、ギターが過重量のため持ってこられなかったこと、昨日御茶ノ水で4時間探したが、気に入ったのがなかったことを話し、リチャードの要望である、ネックやボディーや値段のことを打ち明け、どこか良いギター屋さんがないか、聞いてみた。しばらく思案した後、鬼怒さんは新大久保のギターショップを教えてくれた(このほかにも、いろいろとあったのだが、鬼怒さんは本当に親切でいい人です)。飛び入りこそ果たせなかったが、ギター屋情報をもらえただけで良しとせねばなるまい。外へ出ると、すっかり風雨は止み、台風が去った事を物語っていた(翌日のTVニュースでは、我々が横浜に来たまさにその時間に、市内でトラック数台が巻き上げられ、ハチャメチャになった災害の映像を流していた)。
帰りは台風が去ったのに、なんと「第三京浜通行止め」。長くなりそうなので、仕方なく下の道で新横浜方面を目指す。しかしこれも大渋滞。リチャードがうちの妻子の食事時間を気にしてくれる。時間的にとても家族で食事を取ることは不可能と判断し、携帯で妻に子供と食事を済ませるように伝える。リチャード自身はというと、渋滞にはまって動かないでいる状況について全然気にしていない。BGMのCDに合わせ、相変わらずラリ〜ラ〜ッリラリ〜と陽気に歌っている。さすがに、空腹に耐えられなくなっていたので、渋滞している道を外れ、六角橋方面へ右折。ここでリチャードに提案、
「この辺に『ラーメン』という、豚で出汁をとった熱いスープの中にパスタが入った麺料理の有名な店があるけど、どうでしょう?」
「えーと、豚は脂肪が気になるので、できれば魚の方がいい。」…
というわけで、六角家を素通りし、裏通りの「翁寿司(鮨)」へ。

「たくさん食べられる」というので、通常の1.5人前くらいの量の「翁にぎり」を注文。リチャードはお箸できちんと鮨をつかんで小皿の醤油に付けて食べることができる。お見事。お猪口で冷酒を飲みながら鮨やガリをつまんでヤミヤミ言っているリチャードを見て、「このお方は、ヨーロッパの方だね。」と、老齢のご主人が穏やかに声をかける。「ご名答。」と返す。横でリチャードが「何の話?」という顔をしているので、その後へたくそな通訳として、Sushi- Bar Masterとリチャードの会話をなんとか成立させる。静かで幸福な会話の時間が30分以上続く。リチャードはこの伝統的な鮨屋が大変気に入って、付いてきたアサリの味噌汁のお代わりを所望。ご主人にそのように伝えたところ、お代わりの椀は、アサリのではなくわざわざシジミ汁を作って出してくれた。私も感激。2つの貝の違いを大雑把に説明したが、淡水産のシジミの味にリチャードも大満足。浅草から数十年前にこの横浜六角橋に移られたご主人と、たまたま台風のためにここで食事を取ることになったリチャードが、年齢、国籍、生活史、風習の違いをものともせず、言語疎通がないのに、非常に豊かな情動交流をしていた様は、たいへんホスト冥利に尽きる光景でした。
翁寿司を後にし、新横浜経由で港北インターへ向かう。すると、運が良いことに三ツ沢方面は通行止めなのに、東京方面のみ走行可能なためすぐに帰宅。「たまには日本酒以外のも飲もうよ。」という私の提案で、少しシングルモルトを飲みながら、ギター弾き語り。明日の予定については、鬼怒さんの教えてくれたギターショップへ行くことと、夕方のキャラヴァンのコンサートを見に行くことを希望。
「今日はキャラヴァンの大阪公演があるはずだが、台風の影響は大丈夫なのか?」
とリチャードはとても心配していた。朝食は、やはりブリティッシュ〜ではなく、和朝食を所望。
「おやすみなさい。」

正真正銘「嵐の一日」だったが、翌日が安泰だったかというと、そうでもないわけで。
posted by Crescent Label Master at 12:13| 日記

リチャード・シンクレア ホームステイ日記 初日

【 10月8日 金曜日 】

朝5:30頃、新橋駅近くでポセイドンの増田さんと待ち合わせ、車で成田空港へ。エール・フランスの到着後約30分、次々搭乗客が出てくるが、なかなかリチャードの姿が見えない。一番最後に御大登場。チノパンにTシャツというラフな出で立ち。増田さんを見つけて手を挙げる。初対面のご挨拶。「イヤー、荷物が1個出てこなくてねー。フレンチ・エアーが『次の便に乗っているから待っていてくれ』って言うんだよ。」というわけで、30分ほどカフェで待機することに。楽器の荷物がベースのハードケース1つだけなのを指して、「ヒースローでも大変だった。あと2本ギター持ってきたのに、『過重量です』って、新しいギター1本買える位の料金を請求するから、日本で1本買えばいいやと思って、へザー(奥方)に持って帰ってもらったんだ。」乗るときも降りるときもトラブル続きで「まったくフレンチ・エアーは…」という気分の様子。
遅れてきた荷物を引き取り、駐車場へ向かおうとすると、「あれ?サングラスがない。」荷物を開けて中を調べだすリチャード。でも見つからず、さっきのカフェに違いないということになり、増田さんが取りに行く。待つ間に大事なポイントをいくつか聞いておく。(この時点ではリチャードの「あれ?○○がない。」の恐ろしさをまだ知る由もなかったのであった)


ベジタリアンか?食物アレルギーは?食べ物で嫌いなものはあるか?日本にいる間に特に食べたいものは?
 → ベジタリアンではないが肉より魚の方が良い、アレルギーはない、何でも食べられる、すべての和食が大好きだからいろいろ食べたい。
あまりの優等生的返答なため、外交辞令と理解し、食事のときは油断しないように見守る必要ありと心がける。
とても疲れていますか?早速眠りたいですか?
 → まったく平気だ!眠りたくなんかない、ほら、ラ〜ラ〜〜ッ…(と、突然空港ロビーで歌いだす!)
(わかったわかった)とりあえず今日は何がしたいですか?
 → ギターショップに行きたい!


湾岸道路を辰巳から右折、箱崎へ向かう。増田さんは徹夜明けのため、すっかり寝ている。
「この先がレインボーブリッジか?」
「今日はレインボーブリッジは通らない。帰るときにネ。」
どうやら以前来日したときにレインボーブリッジを通ったことがあるらしい。
「よく虹が出るのか?」
「いや、イギリスと違って東京ではほとんど霧もなければ虹も出ない。日本では実体と関係なく名前がつく。虹はでなくてもレインボーブリッジ、緑がなくて丘もないのにも緑ヶ丘…」
「へーそうなのか、ところで…」
このあたりで、車に乗って以来リチャードがほとんど絶え間なくしゃべっていることに気になったが、きっと無事到着したことによる一時的な軽躁状態なのだろうと(この時点では)思っていた。

増田さんが他の用事のため銀座で下車。2人だけになって自宅へ向かう。新橋あたりで
「今、家に向かっているの?」
「ええ」
「家に行く前に直接ギターショップに行けない?」
「今まだ午前9時前だから。多分楽器屋は11時頃から。」
「まだそんなに早いのか!ラリ〜ラ・リラリ〜〜…ところで、前にキャメルで来た時は、ミスター・ウドーが…」
車中のBGMがデイブ・シンクレアのフルサークルになったので、すばやく“O' Caroline”に曲を進める。リチャードはCDからでてくる自分の声にハモったり、ユニゾンで歌ったり。その後の“That Day”“Sancti”も同様で、リチャード・シンクレア2人のコーラスを聴けるという得がたい体験をさせてもらった。

家に着くと、丁度妻が出かけるところで、簡単にお互い挨拶。荷物を降ろし、リチャードが使う部屋に案内。リチャードはシャワーを使い、着替えてから居間へ。黒い革パンツに黒Tシャツという、いかにもという格好。
「何か飲みますか?イギリス流の紅茶も、豆から挽く香ばしい珈琲もできますが?」
「日本茶が良いです。」
本当かなーと思いながらも、正しい淹れ方で煎茶を出すと
「おいしいおいしい」
と大喜び。リチャードがカンタベリーで買ってきた、日本の生活用品・食事などのイラスト付英訳本のようなものを見せてくれる。事細かに鮨ネタの魚の種類まで書かれていて、
「和食が大好きだから何でも食べたい。」
とのたまふ。
「箸は使えますか?」
「もちろん、イギリスでもよく和食を食べているから。カンタベリーには日本人用の学校があって、たくさんの日本人学生がいるんだ。だから街に日本の食品を売っている店もあるし、私の家の3階に住んでいる娘が…」

ギターショップということになれば、御茶ノ水〜駿河台下にかけての楽器屋密集地帯にご案内するしかあるまい…と、即座に行き先を決めて車で出発。車中ではリチャードとヒュー・ホッパー共作の“Somewhere in France”をBGMに。まず神保町の「いもや(天麩羅)」へご案内。天麩羅鍋の見えるところに座り、定食2人前注文。天つゆが魚の出汁と醤油などから出来ていて、そこに大根おろしが入っていることを説明し、
「苦手だったら塩をもらうからそれをつけて」
と言っておいたが、難なく天つゆ大根おろし入りをクリアー。食べている途中で「当店は塩を出しません」の張り紙に気がつき、冷や汗。「美味しい、美味しい」
の連発で、学生でも残す人がいるほどの量を、最後は余ったご飯にお代わりした天つゆをかけて平らげてしまった。

店を出てからも、天麩羅がいかに美味しかったか話し続けるリチャードを、駿河台下交差点角のギター屋にご案内。1階のベースコーナーでは、
「一番良いベースは、実は日本製のフェンダー・ジャズベースなんだ。このフレッドを全部引っこ抜けば完璧だ。」などと、手荒なベース薀蓄を披露。2階のアコギのコーナーで、いろいろ試奏したい、出来れば全部という。お店の人に重量の関係でギターを持ってこられなかった件、もうじき本番のギグがあり、至急日本でギターを入手せねばならないことといった事情を説明し、協力を請うて、大量にいじりまくることに許可をもらえた。
他の日本人客と店員さんの振る舞いを観察すると、ある程度候補を絞り込んで、1〜2本のギターを試奏して、買うモデルを決めている様子。そんな中、片っ端からこれと思うアコギを弾かせてもらう。日本の楽器屋に並んでいるギターが、皆、弦を緩めてあるのが不思議かつ面倒らしく、
「弦を締めたり緩めたり繰り返すと、ネックが背側と腹側に波打って曲がるからかえってよくないんだ。店のギターも全部緩めないで張りっぱなしにしといた方がいいよ。」
と、1本1本試奏するたびに、弾き終わったギターの弦を緩めて元に戻してくれているお店のお兄さんに笑顔で忠告していたのであった。ロンドンではそうなのか?幸いお店の人は、私の
「貴重な商品を何本も試し弾きさせてもらって申し訳ない。弾いた後、そのたびに弦を緩めることを手伝ってくれているあなたの親切に感激している。」
と申しています、というでたらめ通訳に笑顔で頷いてくれた。危ない危ない。

結局、気に入ったものはなく、というか気に入るようなギターはMartin製などで非常に高く、他の店へ。どうやら、最初の店でいろいろ触った結果、アコギでも、ネックが太めなこと(日本製のは一般的に細すぎらしい)、ボディーがやや厚めな上シングルカットで奥まで手が入ること、できればピックアップが付いている事が条件としてあげられたため、次の店からは、その条件を私が告げて、店の人が持ってきてくれた数本を中心に試奏させてもらうことに。雨の中、十数軒、計4時間も探し回ったが、値段を含め、リチャードの気に入ったモデルがなかなかないことが確定的となっていた。が、リチャードは鼻歌交じりでむさぼるように次から次へとギターを試したがる。
こうなることを1時間前に察知していた私は、携帯で妻に、近所の鰻屋に6時からの予約で席を取ってもらっておくように指示しておいたのだ。おもむろに切り出す。
「ところでリチャード、妻が6時に和食の予約をしておいてくれたのだけど…、鰻の料理でとっても美味しいんだ。」
「OK、今日は帰ろう。ところで君のうちにはギターはあるの?」
「ハンドメイドのガットギターが1本あるにはあるけど、もう30数年ほとんど使ってないから、ネックは反っているかもしれない。」
「わかった。」
といって、坂の途中の店に入り、ナイロン弦のHard Tension Typeを購入し、やっと帰路へ。4時間立ちっぱなしの私はヘロヘロに。(「今日は」の深い意味を後日思い知ることとなる)

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リチャードは初対面のうちの子と挨拶。4人で「平八(鰻)」へ。鰻を待つ間、長芋の千切り酢の物、鰻の肝串、とりわさ、おしんこ、といった、そうそうたる「外国人がマイッタしそうな和食」で冷酒をいただく。我々夫婦は、まずは生ビール!というスタートだが、リチャードはビールを飲まず、冷酒を褒めちぎり、グイグイと盃を空けていった。鰻の肝には我々に習って山椒をふりかけ完食。取り分けてあげた他の料理も、
「美味しい、美味しい」
と器用に箸を使って食べつくし、
「特にこれが美味しい」
と、糸を引いた長芋の酢の物はお代わりを繰り返した。リチャード恐るべし。これにはお店の人もびっくり。きっと納豆もいけちゃうんだろうなー、などと考えつつ、待つこと約40分、鰻重の出来上がり。おそらく生まれて初めて見たであろう鰻の蒲焼に、なんの躊躇もなく箸を入れて一口…
「あー、美味しい!」。
お重のご飯が硬めで少しまとまりにくく、箸で食べづらそうなので、妻が
「スプーンをもらいましょうか?」
と聞くが、
「否、結構。」
と、がんばって箸で食べ通した。その姿に彼の「和食のエキスパートになってやる」という意気込みを私は感じた。店のご主人や奥さんにも帰りに挨拶され、ご機嫌なリチャード。


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台風接近の雨の中、ほろ酔い加減で、ラリラ〜・プーッ・パッパヤ〜Rain drops are falling on my head〜などと歌いながら帰宅。屋根裏倉庫からギターケースを取り出し、開けてみると、ピロピロに伸びきったり、切れたりした弦が付いたままのガットギターが姿を現した。幸いカビてはおらず、リチャードは鼻歌を歌いながら弦を取り替えていく。すべて張り終え、音叉でチューニングしたあと、弾き語りで “Going for a Song”を歌う。目の前で聴いてるこっちは眩暈がしそうだったが、歌い終え「ウーム」といいながら、ネックを頭の方から見て反りの有無を確かめたりブリッジを触ったりしていた。
「OK。ネックは大丈夫だ。今日試したギターの中で一番だ。だけど、ブリッジに溝が切っていないから弦が高めに浮いてしまっている。少しだけ切れ込みを入れれば完璧だ。」
と、妻を呼んでカッターを持ってこさせ、弦を緩めてブリッジにカッターで溝を掘り、そこに弦をはめていった。
「パーフェクトだ!」
それからの約30分は、我々家族3人だけが聴衆の、リチャード・シンクレア独演会。ミュージシャンというよりエンターテナーという言葉がぴったりのパフォーマンスであった。寝る前に、
「明日は何がしたい?」
「出来れば日本の良いバンドのギグを見に行きたい。」
「わかった。増田さんに何かないか聞いておきましょう。朝は何が食べたい?完璧なブリティッシュ・ブレックファストも可能だけど?」
「完璧な和朝食がいい。」
「味噌汁は大丈夫ですか?」
「オー!味噌汁大好き。わかめもOK!」
「わかった。妻に伝えておきます。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」

嵐のような1日目終了。翌日は本物の嵐の中へ。
posted by Crescent Label Master at 12:10| Comment(0) | 日記